STEAMライブラリー

【後編】避難所のリアルや農業から「新しい人間力」を学ぶ。ハーバード大進学者も育てたノウハウを教材に~海城中学高等学校~

 

この記事は経済産業省運営「STEAMライブラリー – 未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容や使い方のアドバイス、STEAM教育に対する想いなどを取材する連載企画です。

 

前回は、海城が30年に亘って行ってきた学校改革の内容、そしてそれがどうSTEAMライブラリーのコンテンツに活かされているのかを伺いました。

今回は後編です。先生たちがどのような熱意で行動し、学校改革の副作用を乗り越えたか、コンテンツ利用のポイントと注意点、そして海城がこれからどういうことにチャレンジしていくのかを伺います。

 
〜前編はこちら〜

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「進学実績が減ったらどうする」改革の副作用をどう乗りこえたのか

田中
田中
逆に、新しいことに取り組む中で、副作用のようなものはありましたか?東大受験から探究へ、というと反対意見もありそうですが。

教師の実存を問う「どうしてもこれをやりたい」

中田先生
中田先生
「もう東大に30~40人入っているのに、そんなことに時間を使って進学実績が落ちたらどうするんだ」という保守派と、「どうしてもこれをやりたい」っていう新しいことをやろうとする人たちのパワーゲームはありました。 そして多分、いまどの学校もそういう状況だと思うんです。

田中
田中
そこをどうやって乗り越えられたのでしょうか?

中田先生
中田先生
教員としての「実存」の問題っていうのがあるんですよ。 受験合理性と言って6年でやることを5年でやって、残りの1年間は受験勉強に専念して要領よく大学に入れても、そこで止まっちゃう。これって社会の役に立ってないよな、こんなことしてていいのかな、教員として、やっぱりちょっと虚しいものがあるわけです。 だから、受験成績を確保しないと、という意見もある中で、ある意味、私学として生き延びていくために、ちゃんと結果も出しながらやろうよ、っていう話になって。 模試の成績が下がったりしたら「それ見たことか」と言われちゃうので、担当の先生方は放課後の講習もやったり、大変な努力を払いながら、それでもパッションを持って自分たちの理念を通すことをやってきました。 PAとか「そんなの子供の遊びじゃないか」と言われたりしても、そういう先生にも実際に体験してもらったり、しぶとくやるしかない。

学校の外の世界へ目を向けることで「絶対に必要なことだ」と確信した

田中
田中
ありがとうございます。 先生方の苦労や、苦労をどうやって乗りこえたかなどありますか?いざ自分がやってみてつまずいたところとか、その乗りこえ方みたいなヒントがあればお願いします。 中田先生がおっしゃるように、悩んでいる先生もたくさんいると思うので。

中村先生
中村先生
私の場合は早い段階で、演劇教育に取り組むことには社会的意義があると、強く信じられたことが大きかったのだと思います。 教員になった時から、偏差値の高い大学に入るだけではなく、大学を卒業してから社会で活躍できる人材を育成したいという気持ちは漠然と持っていました。演劇的手法の学校教育への導入に可能性を感じ、まずは自分が体験しなくてはいけないと考えて、色々な演劇ワークショップに参加するうちに、演劇という営みの中には、対話的コミュニケーションであるとか、多様性を認め合うことであるとか、協働する喜びであるとか、生徒たちが社会で活躍するために必要な能力を体験的に学ぶ機会がつまっているように感じました。 専門的にワークショップを学ぼうと、青山学院大学の「ワークショップデザイナー育成プログラム」に通いました。当時の参加者にほとんど教員はいませんでした。企業の人事関係の方が多くいて、「企業の研修を体験的な学びに変える」、「自ら課題を発見し解決する人材を育成するヒントをもらいにきた」などと抱負を口にするのを聞いて、企業に比べて社会の変化に対応するスピードが遅くなるのは仕方がない部分があるとは思うのですが、「学校は遅れているな」と感じました。体験的な学び、主体的で対話的で協働的学びは、当時は学校にとってまだまだ新しい試みだったかもしれませんが、企業ではあたり前のことだったのです。  私が学校現場で演劇ワークショップを通じて、例えば「価値観の異なる多様な他者と対話をとりながら、未知の課題を協働的に解決する力」を育成したいなどと話すと、大変興味をもってもらえました。企業が求める人材を育成することが本義ではありませんが、これからの社会で活躍できる人材の育成の方向性として間違いないと、その時確信しました。 演劇教育を導入していくにあたり、確かに色々な苦労もありましたが、生徒にとっても社会にとっても、絶対に必要なことだと信じることができていたので、ここまで進めてこられたのかなと思っています。

プロを招いた演劇ワークショップの様子
田中
田中
一人だと、どうしても信じきれない部分もあるかもしれないですけど、まさに今回の取材で先生方のおっしゃったことに触れて、信じられるようになってほしいですね。 ちなみに、教員以外の人とも付き合うことが一つポイントだと思うのですが、学校の外と接する選択肢がある、ということが見えていない先生もいらっしゃると思います。 外と触れ合いながら「探究学習やらないとな」と思える活動って何かありますか?研修でしょうか?

中村先生
中村先生
今の先生には時間がないので、外部の研修に参加するのはなかなか難しいとは思うのです。ただ、意識的に学外の人と接点を持つ機会を作ることはやはり大切だと思います。それこそ、学生時代の同級生と話すとかでも良いので、学校の外に目を向ける機会を持った方が良いのだと思います。 「探究学習」について言うと、来年度から高校ではじまる「総合的な探究の時間」は、そもそも「実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する問題を様々な角度から俯瞰して捉え考えていく」時間として設定されています。自戒を込めて言いますが、これからの時代は学校も教員も「実社会」に開かれていかなくてはいけないのでしょう。 「探究学習」を展開する教員の目が「実社会」である学校の外にも向いていなくては、「探究学習」がうまくいくはずがありません。ご質問にお答えするとしたら、「探究学習」をやるために「外と触れ合」わなくてはいけないのだと思います。

探究学習に取り組むことで受験力も上がっていく

生物部は学会での受賞歴もある(陸水学会にて優秀賞受賞時。2019年)
田中
田中
関口先生はいかがですか。

関口先生
関口先生
私は、生物部の部員が自分たちで研究したことを学会で発表する、っていうのが一番探究学習に近いかなと思います。 新人時代は、そういうことをやっていると「受験指導はどうするんだ」と言われ、一方で探究学習や研究活動もきちんとしていきたい、ということで結構しんどかった時期はあります。 入試も大事だよね、っていう気持ちもわかるので、生徒たちが受験でも結果を出す、ということはかなり意識してバランスをとるようにしていました。 例えば生物部で学会発表して賞をもらった生徒とか、論文を書いた生徒はAO入試とか推薦入試で進学していて、東大に推薦で入った子もいます。他にも北海道大学や京都大学に入ったり、そうした形でも成果や進学実績は出てきています。 一般で受験する子も、研究が終わって高校三年からの伸びがすごいなって思ってまして。 自分から課題を見つけたり、学会で専門家から意見をもらったりして自分の研究のどこが悪いのか振り返ってデータを集めたり考えていくっていう力が、全体の学力の底上げになっていると思います。だから探究学習をすることによって、受験の結果が落ちるのではなく、両方が上がっていくんだと自分は思います。 一方で、学会発表とかコンペとか賞が目的になってもよくないので、どうやったら探究すること自体が楽しくなるか、どんどん自分で探究していっちゃうようにするにはどうすればいいのか、はよく考えますね。

中田先生
中田先生
本来は、自己充足的にやらないとね(笑)

田中
田中
大人も同じですよね(笑)

STEAMライブラリーコンテンツ活用のポイント

田中
田中
STEAMライブラリーのコンテンツについて教えてください。準備したほうがいいことなどもあればお願いします。

「防災教育」は後半のケーススタディが強み。できれば演じてみてほしい

 

コンテンツ紹介:防災教育〜災害に対してどのように向き合うか〜

前半では知識や身構え、心構え、災害のメカニズムを中心に学び、後半ではケーススタディのドラマを見ながら問題点を考えるという構成になっている。

 
中田先生
中田先生
このコンテンツの強みは後半です。インパクトを持たせるために後半から見せてもいいと思います。 災害のいざというときに、自分が動けるのか、問題を解決できるのかを、疑似体験できます。そのあたりの注意点は中村先生お願いします。

中村先生
中村先生
前もって特別な準備をしなくて良い作りにはなっています。被災地を描いたドラマを観て、楽しみながら学習してもらいたいです。 ドラマを観て、被災地ではどのような問題が起こるのかを知ってもらう。ワークシートに従って、その問題を解決するにはどうしたら良いのか、その問題を起こさないためにはどのような振る舞いが必要だったのか考えてもらう。その後で、解決の方法は一つではないのですが、解決策の例の一つを示したドラマを用意しているので、それを観て何がポイントだったのか考えてもらう。ここまでは、一人でも学習できるようになっています。 現場の先生が授業で使う時には、解決の方法や適切な振る舞いかたについて、グループで話し合う時間をとってもらいたいです。さらに時間があれば、台本がついているので、そのシーンと解決の方法を演じてみて欲しいです。自分で演じてみることで、実際に被災地でトラブルが起こった時にどのようにふるまえるのか、他者とどのようにコミュニケーションをとることができるのか、体験的に気づくことができます。最初はうまく対応できなくてもかまいません。うまく対応できなかった自分に気づくことも大切です。 ワークシートの最後のふりかえりには、今回学んだ内容の中で自分たちの日常生活に活かせそうなことは何かを記入する欄があります。被災地で求められる問題解決の姿勢、適切な振る舞い、他者とのコミュニケーションの方法は、我々の日常生活においても重要だということにぜひ気がついて欲しいです。

生物多様性「おれもよくわかんないんだけど、一緒にやろうぜ」というスタンスでいい

 

コンテンツ紹介:農業と生物多様性の保全を両立するには?

今まで行われてきた農法・インフラ整備の良い部分は活かしつつ、それらが抱える問題を生物多様性保全も含めて、持続可能な農業にするにはどうすればよいかを考える教材です。
持続可能な農業や農業と生物多様性保全の両立について学び、正解のない課題について探究し、自分なりの答えを見つけ出すことを目的としています。

 
関口先生
関口先生
シンプルな形で準備もいらないように作りました。まずワークシートを見れば全体の流れがわかるので、パッと概要を掴んで、「一緒にやってみよう」っていうところからスタートしてもらえればいいと考えています 。 生物の先生だったら生物多様性のところを授業で使おうとか、農業をやってたら農業の課題を使おうとか、つまみ食いみたいな形でやってもらってもかまわないと思います。 教科指導的な感覚だと理屈や問題点を事前に理解して・・・とめちゃくちゃ大変なんですけれど、それって正解がないので。 「おれもよくわかんないんだけど、一緒にやろうぜ」って言って、わからないところがあれば生徒に調べさせたりとか。教員の役割としては生徒が調べたものをどういう風に共有するかが腕の見せどころかなと思います。

これからチャレンジしたいこと

田中
田中
これからチャレンジしていきたいことはありますか?

ICTも活用して「多様性」「他者との協働の喜び」を

中村先生
中村先生
これからの時代を生きる生徒には、様々な価値観を持つ人と協力して成果を上げることのできる人になってもらいたいと考えています。未知の課題に直面した時に、価値観の異なる人の意見をうまくすりあわせることで、問題を解決していけるような人になってもらいたいのです。 今後は、学校という枠組みの中で、価値観の異なる人と協働することの喜びを感じられる機会をさらに増やしていきたいです。もちろん、他者と協働することは大変なことで、嫌な思いもするかもしれませんが、他者と関わることで新しい自分が開かれることを楽しんで欲しいです。そんな新しい自分にワクワクできるような機会をどんどん与えていきたいと考えています。 そのために引き続き演劇的手法を用いたプログラムを探究しながら、国語教師として国語の授業の中で何ができるのか考えていきたいです。まだ具体的なアイデアはありませんが、海外の人とでも気軽に繋がることのできるICTの技術に協働学習の今後の可能性を感じています。

現地に行って、学びを深める

関口先生
関口先生
学んだことを、現場とか現地に行ってさらに学ぶっていうふうなところまで繋げていきたいなと考えています。 以前、農業と生物多様性について考えようという、スタディツアーを九州でやったんですね。そのとき、もっと事前にこういうことしておくと、現地行ったら学べたね、っていうことがありました。今回のコンテンツもそうですけど、これが事前学習になって、現地に行って、もっと深いところを農業従事者さんや保全をしている方にどんどん質問して、もっともっとこの学びが深められたらな、と思います。

「海城ライブラリー」でICT教育と働き方改革の両立を

中田先生
中田先生
海城のICTインフラを生かして「海城ライブラリ―」みたいなデジタル教材アーカイブ構築の可能性も考えています。STEAMライブラリーのようなものですね。 というのも、海城はこの5年くらい、GIGAスクール構想をさらに先取りする形で、ICTインフラの整備を進めてきました。 ほぼ全教室に電子黒板機能の付いた可動式プロジェクターがあり、Wifiルーターもある。生徒たちはMacBookAirかiPadのいずれかを持っている。生徒たちにはICTリテラシーとプログラミング的な思考法を学ばせると同時に、それらを使い倒すみたいなことをやっていきたい。 もう一つ、教師の働き方改革があります。これまで先生は一国一城の主で、自分の授業は全部自分で教材を作って、それを繰り返し使って授業をしてきました。同じと言っても授業は生き物ですので毎回違うのですが。

田中
田中
少しでも先生が楽になるようにしたいですよね。

中田先生
中田先生
今回、コロナ禍の閉校期間にオンライン授業を行う中で、先生方がいろいろ工夫して動画教材を作りました。私はマネジメントの立場で毎日、その動画教材を見ていて、一人で使うのはもったいないと感じました。 共有して活用していったほうが省力化もできるし効率もいい。先生方で協働して作った動画教材とICTインフラを活用して、これまでと違った授業準備や授業形態ができるかなと思っています。

田中
田中
みなさんのような先生が全国にいればいいのに!と本当に思います。 本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

田中悠樹 (インタビュワー)

「STEAMライブラリー」システム構築事業者である株式会社 StudyValleyの代表取締役

2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。
2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。

 
 
 
 

STEAMライブラリーとは

経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館

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代表:田中
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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社StudyValley代表

田中 悠樹|株式会社StudyValley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社StudyValleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。