STEAMライブラリー

エネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために|東京理科大学

*この記事は経済産業省「STEAMライブラリー未来の教室」のコンテンツ事業者様に、教材の詳しい内容や使い方のアドバイス、STEAM教育に対する思いなどを取材する連載企画です。

東京理科大学は、「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という建学の精神のもとで設置された私立大学です。工学部や薬学部、理工学部など、様々な理系学部を有しています。

STEAMライブラリーには、カーボンニュートラルな社会に向けたエネルギー政策等を学ぶコンテンツをご提供いただいております。難しいテーマに感じられますが、身近なものと結びつけ、自分事として学ぶことができます。今年は、昨年のコンテンツがアップデートされ、第六次エネルギー基本計画や、近年、注目が集まる「カーボンニュートラル」について、より理解が深まる内容に更新されています。

このコンテンツの使い方や込められた想いについて、山口様・岡田様に、弊社代表の田中悠樹がお話を伺いました。

山口順之様 プロフィール


東京理科大学 工学部電気工学科 准教授。
北海道大学大学院工学研究科 博士後期課程修了(博士(工学))。2002年 電力中央研究所 研究員。2008年より1年間,米国ローレンスバークレー国立研究所 客員研究員。2015年 東京理科大学 講師,2019年より現職。経済産業省 総合資源エネルギー調査会 系統ワーキンググループ等 委員。

岡田健志様 プロフィール


株式会社増進堂・受験研究社 主任研究員。
大阪大学大学院人間科学研究科博士課程後期単位取得満期退学:人間科学修士(科学哲学・言語哲学)。MOOC, e-Learningの講座設計・コンテンツ制作を中心に、最新技術の教育への転用に関する複数の産学連携プロジェクトに関わる。本コンテンツ改修ではディレクションを担当。

東京理科大学

「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という建学の精神のもと、「自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造」を理念とした教育を行っています。データサイエンスの知識や技術を修得できるデータサイエンス教育プログラム、宇宙科学技術の理解を深める宇宙教育といった、特徴的な取り組みが魅力です。

コンテンツについて

タイトルエネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために
学年中学、高校
キーワード防災、環境問題、スマートシティ、原発問題、環境教育
URLhttps://www.steam-library.go.jp/content/14

概要

この講座では、カーボンニュートラルな社会の実現に向けて、発電技術やエネルギー政策について学びます。関連する、「社会」「暮らし」「地球環境」「技術」「教育/教養」といったテーマを、あなたの関心に応じて自由に選び進めることができます。エネルギー問題を「自分事」にして、世界のエネルギーとあなた自身の未来を思い描いてみましょう。

普段学んでいる数学や理科が将来に活きることを一番伝えたい

(田中)東京理科大学様には昨年度もコンテンツをご提供いただき、今年度のコンテンツはそれをバージョンアップしたものとなっています。具体的にどのような点が改良されたのでしょうか?

(山口)今回のコンテンツは、社会で起きていることと、より関連づけた導入にしました。昨年、高校の物理基礎の授業で前回のコンテンツの実証が行われました。実験パートは非常に好評だったのですが、一方でエネルギー問題については他人事と感じる生徒さんも多く、そこが課題でした。そこで、社会に結びつければ、文系の生徒さんやエネルギー問題を自分事として感じられない生徒さんにも有意義なコンテンツになると考えました。コンテンツを通して、普段学んでいる数学や理科が将来に活きることを一番伝えたいと思っています。

(田中)エネルギーの学習にスムーズに入りやすくなっているんですね。

(岡田)はい。また、昨年度の講座では工作をする内容から始まっていたのですが、工作が苦手な生徒さんは興味を持ちにくかったという反省がありました。ですので、今回は社会的なアプローチや電気に関わるアプローチなど、様々な入口を提示しました。要は、「入り方は何でも良くて、自分なりに学べれば良い」というコンセプトで、どんな人でも入りやすいようになっています。

(田中)なるほど。導入・入口にこだわっているのが伝わりました。導入の他にも変わった点はございますか?

(岡田)前回は一斉授業スタイルを前提に作ったのですが、今回は個人探究にも対応できるようにしました。また、一斉授業の場合でも、授業スライドがあるので、先生が新しい教材を用意する必要はありません。さらに、教員用指導案には、授業進行の例や評価基準を最初にまとめています。このため、先生が予習して全部理解した上で臨まなくても、問題なく授業が行えるようになっています。

フィットネスバイクから考える気候変動?身近な視点からエネルギー問題を考える

▲人一人が生み出せる何倍ものエネルギーを消費し続けることが、地球規模の気候変動へつながっている、と身近な例からの問題提起で始まる(PV:「未来の教室」STEAMライブラリー_東京理科大学「エネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために」より)

(田中)生徒がテーマを自分事化するのはとても大切ですが、エネルギー問題に興味を持ってもらうために、先生はどのような導入を心がけるのが良いでしょうか?

(岡田)身近な場面とエネルギーとの関わりを示すことです。この教材のPVの始めでフィットネスバイクの話をしています。実際にスポーツジムでフィットネスバイクを使うと蓄電されるという取り組みも行われています。スマートフォンのバッテリーの持ちなどもそうですが、日常的な場面が実はエネルギーと関わっているということに、生徒さんに気づいてもらうことが大切です。具体的な問いの例は指導案に入れているので、それをお使いいただけたらと思います。

▲「朝から何分、スマホを使った?」指導案に掲載された問いかけの例(1コマ目:第1節:生活と社会に関わるエネルギー 資料(教員用) より)

コンテンツ活用のポイントは?時事問題や進路選択に生かす観点も

▲時事問題としてカーボンニュートラル、自然エネルギーに注目が集まるが、安定したエネルギー供給には「エネルギーミックス」という考え方が不可欠だ(4コマ目 第4節:発電・蓄電・送電の基本原理とエネルギーミックスより)

(田中)コンテンツはどの学年や学期に使うのが良いでしょうか?

(山口)エネルギー問題は時事的な性質があるので、時事問題として注目されている時に使うのが一つのやり方だと思います。夏にエアコンを使っている時や、「冬になぜ電力不足になるの」といった切り口でも良い思います。

(岡田)コンテンツは全体として、興味関心さえあれば、小学校から高校まで、どの段階の方でも見られるように作りました。言葉遣いも難しくないし、専門用語が出てきても概要を掴めるようにしています。ですので、「この前提知識がないと理解できない」というものはありません。

さらに言うと、今回のコンテンツでは「内容を消化すべきだ」という発想はあまりないんです。「大学ではこんなことができる」というのを提示しています。「今はわからないけれど好奇心だけは掻き立てられる」というので良いのです。そこから、大学で勉強したくなって、進学意識を持って勉強する意欲を喚起できればと思っています。そういう意味で言うと、一般的に文系/理系の進路選択をする前、高校1年生の1・2学期にやっていただくのが良いと思います。進路を決めるための学びとしても使っていただけたら嬉しいです。

▲スマートシティの「エアコン見守りサービス」を知ると、エネルギー問題に介護・福祉という観点が加わる。生徒が大学で何を学びたいかにも関わってくるかもしれない(3コマ目:第3節:スマートシティ 街づくり構想とエネルギー 動画7より)

(田中)なるほど。進路選択にも活かせるんですね。

(岡田)はい。コンテンツにはその業界の若手の方のインタビューを入れていて、数年後のロールモデルを示しました。これが大きな特徴です。その人のようになるには、どんな勉強が必要かを考えるようにしました。先生方にとっても、送り出していく生徒たちはこうなっていくんだな、という進路先のことが見えると思います。

学習者、現場のニーズに合わせて節ごとに使用してよい

▲授業スライドには、節の合計時間と各動画の所要時間が一覧で示されている。(1コマ目:第1節:生活と社会に関わるエネルギー 資料より)

(田中)特定のコマだけ見ることも可能ですか?

(岡田)「どこから始めてどこで終わっても自由」というコンセプトで制作しています。ただ、節の中では流れがあるので、節の途中だけ使うとうまく伝わらない場合もあります。節ごとに抜き出してお使いいただければと思います。学習者が見たい節を選びやすいようにするため、授業スライドに各節と動画の所要時間を一覧で入れているので、現場のニーズに合わせて選んでいただければと思います。

お二人が探究していること

(田中)お二人は、現在探究されていることはございますか?

(山口)今回のコンテンツを作ることが探究でした。高校生がどのように学んでいるのか、彼らにとってわかりやすいコンテンツはどのようなものか、国がSTAEMライブラリーを通じてどのような人材を育てたいのか、などについて非常に考えました。大学教員も、これからより一層、高校生に関心を持つ必要がありますね。

(岡田)今回のプロジェクトは「どのようにしたら、エネルギー問題に学生の皆さんが自分ごととして関心を持つか」の探究でした。講座を通じて自分ごとの課題感をもった生徒さんたちは、関心をまだ持てていない人たちをどうやったら巻き込んでいけるのかという課題に直面すると思います。社会課題に関わる探究は周囲を巻き込むという終わりなき探究です。私たち教材開発者はその探究をライフワークにしています。

まとめ

山口様、岡田様、今回は貴重なお時間をありがとうございました。

難しいテーマだと捉えられがちなエネルギー問題ですが、それを自分事化することにこだわったコンテンツを制作していただきました。また、普段の学習が将来や社会に活きることに気づくきっかけにもなるため、ぜひ活用してみてください。

>エネルギーの未来を描く:カーボンニュートラル社会実現のために

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この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。