探究学習に取り組む先生にとって、「テーマ・課題」をどうするか?という問題は、最も悩ましいもののひとつではないでしょうか?
実際に探究学習をクラスで実施された先生は、
テーマ・課題が決まらない
テーマ・課題に生徒が興味を持たない
決めたテーマ・課題に関する資料が少ない
浅い調査、議論で終わってしまった
生徒に学んだ、役に立ったという実感がない
想像以上に先生の負担が大きい
などの悩みに直面した方も多いと思います。
この記事では「テーマ・課題」選びに重要な、しかし見落としがちな3つの視点をご紹介します。結論はこちらです。
具体例を紹介しながら、詳しく見ていきます。
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探究学習のテーマ・課題選びに失敗する先生が、つい見落としがちな3つの視点
探究学習で最初に行うのが「テーマ・課題選び」です。テーマ・課題を決めて、そこから問いを立て、実際に探究していきます。つまり適切なテーマ・課題選びができれば、その後のプロセスもスムーズに進みやすいですが、失敗するとうまくいかず、先生も生徒もモヤモしたまま探究を続けることになりかねません。
「誰が決めるのか」「何を選ぶのか」「学習レベル」の3つが大事
テーマ・課題選びで重要なポイントは3つあります。それは以下の3つ。
1.誰が決めるのか
2.何を選ぶのか
3.学習レベル
ただやみくもに「生徒がやりたがっているから」「勉強になりそうだから」とテーマ・課題を選ぶのではなく、まず、これら3つのポイントに沿って整理してみてはいかがでしょうか。
具体的に説明する前に、探究学習のプロセスと「テーマ・課題」の位置づけを簡単におさらいしておきます。
探究学習のプロセス
引用:高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編
探究学習は、文部科学省の指導要領によると、以下のプロセスで進みます。
1.課題の設定
2.情報の収集
3.整理・分析
4.まとめ・表現
「まとめ・表現」で完結せず、そこから、また新しい課題を見つけて探究を続けるらせん状の発展が、「課題解決型学習」などとの違いです。
さて、テーマ・課題の設定は最初のプロセス「1.課題の設定」にあたります。
テーマと課題の違い
テーマは探究のキーワードとも言うべきもので、課題より抽象度が高いものです。「環境問題」「地域活性化」のようなものがテーマにあたります。
課題はテーマから絞り込まれた、具体的な問題、理想とのギャップ、矛盾などのことで、「駅前のポイ捨て増加」「商店街の客数減少」などが課題です。
テーマ:環境問題 → 課題:マイクロプラスチック問題
テーマ:地域活性化 → 課題:商店街の客数減少
テーマは指導要領の図には出てきませんが、教育の現場では非常によく使われるので、ここでは合わせて解説します。
生徒の成長、正しい評価のために適切なテーマ・課題選びが大切
探究学習のプロセスで最初に取り組むのが「テーマ・課題」の設定なのですが、
「探究テーマは生徒が主体的に選ばなければならない」
「生徒のやる気が大切」
など、生徒任せにしていませんか?探究学習は、そのプロセスを通じて、生徒が身に付けるべき知識や能力があります。
教科学習・探究学習と生徒の身に付ける能力とのモデル例
以下の図は、中学高校の6年間で探究学習を通じ、生徒にそのような能力を身に付けさせるべきかを図式化したものです。このようなグランドデザインがある場合。目的から逆算して適切なテーマ・課題を設定することが重要になります。
(令和2年度 ワールド・ワイド・ラーニングコンソーシアム構築支援事業 : 西日本をつなぐグローバルリーダー育成イニシアティブ 研究開発実績発表より引用)
課題研究・新教科等のカリキュラムの構造(同資料より引用)課題研究について主眼とすること(1~3年が中学1~3年、4~6年が高校1~3年にあたる)
テーマ・課題設定に失敗すると、探究学習がうまく進まず、探究を通じて養われるべき知識や能力が養われないため、先生とっても生徒にとっても徒労に終わってしまう恐れがります。生徒の成長、正しい評価のためにも適切なテーマ・課題選びは大切です。
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「1.誰が決めるのか?」3つのパターン
ここからはテーマ・課題選びの3つのポイントについて解説していきます。まず最初は「誰が決めるのか」です。これには3つのパターンがあります。順番に見ていきましょう。
1.誰が決めるのか
1-1・先生が決める
1-2.先生が選択肢を出し、生徒が決める
1-3.生徒が決める
2.何を選ぶのか
3.生徒の学習レベル
1-1.先生が決める
テーマ・課題を先生が指定するやり方です。
指導要領には生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現が掲げられており、探究のテーマ・課題も生徒が決めることが理想と考えられています。
しかし、実際の現場では、学校ごと、学年ごと、クラスごと、個人ごとにさまざまな学習レベルがあり、一律的に「生徒が主体的にテーマ・課題を選択できる」とはいえないのが現実です。
「先生が決める」パターンでは、先生があらかじめ用意した、探究学習に適していて、かつ先生自身の特性に合ったテーマ・課題を選ぶことにより、指導がやりやすくなるというメリットがあります。
テーマ・課題の種類を限定したり、みんな同じテーマ・課題に取り組ませたりすることで先生の負担を減らすこともできます。
一方で、生徒が主体性を発揮できないので、生徒のモチベーションが得にくいというデメリットがあります。
1-2.先生が選択肢を出し、生徒が決める
先生が複数のテーマ・課題を示して、生徒がその中から選ぶというパターンです。
おそらく、多くがこのパターンになるのではないでしょうか。
先生の指導のしやすさと、生徒のモチベーションを両方得ることができるのが特徴です。
1-3.生徒が決める
生徒が自ら考えてテーマ・課題を決めるパターンです。
生徒が自分自身の興味・関心から決めるため、高いモチベーションを得ることができます。
一方で、多種多様なテーマ・課題ができて、先生の指導負担が増える可能性があります。
とはいっても上記手順で進めていくことはなかなか日々の業務の中難しいと思います。
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「2.何を選ぶのか」5つのパターン
1.誰が決めるのか
2.何を選ぶのか
2-1.個人的なもの
2-2.職業・進路に関するもの
2-3.地域や学校に関わるもの
2-4.総合的(現代的)なもの
2-5.学問上の研究に関わるもの
3.学習レベル
探究のテーマ・課題は無数にありえます。ここでは探究学習に適した代表的な5つのカテゴリと、その特徴を解説します。
2-1.個人的なもの
生徒自身の個人的な興味・関心、悩みごとなどに基づくものです。
例 | ハマっているアーティストについて調べたい/習い事について/流行っている〇〇について |
---|---|
メリット | 生徒のモチベーションが得やすい |
デメリット | 先生の指導がしにくい/うまく導かないと浅い学習に終わりがち/グループ学習では共通の興味にならないことも/学術的な先行研究が少ない |
2-2.職業・進路に関するもの
職業、仕事、進路に関するものです。
例 | 将来なりたい職業/働くことへの興味・疑問/30年後の仕事 |
---|---|
メリット | 生徒のモチベーションが得やすい/自分の未来に直結し、生徒にとって有益な探究になる/学習のモチベーションが低い生徒でも関心を持ちやすい |
デメリット | 新しい職業が増える中で、先生がそれらに対して知識が不足、または先入観を持ちすぎる場合がある |
2-3.地域や学校に関わるもの
学校の課題や行事、身近な町の課題や出来事に関するものです。
例 | 商店街のあのお店を流行らせるには?/文化祭を盛り上げるには?/学校のトイレをきれいに保つには? |
---|---|
メリット | 生徒のモチベーションが得やすい/フィールドワークや取材がしやすい/グループで取り組みやすい |
デメリット | 外部と連携するための手続きが必要な場合がある(取材のアポイントなど) |
2-4.総合的(現代的)なもの
SDGsや社会問題のような総合的、現代的なものです。
例 | 格差をなくすには/カーボンニュートラルを実現するには/ジェンダーについて |
---|---|
メリット | 資料が豊富にある/グループで取り組みやすい/将来、仕事などで関わる可能性が高く有益である |
デメリット | 独自性が出しにくい/紋切り型のまとめになる恐れがある/関心がない生徒もいる |
2-5.学問上の研究に関わるもの
化学、歴史、数学、宇宙など学問研究に関わるものです。教科の探究学習もこれにあたります。
例 | 地域の植生を調べる/素材の特性を調べる |
---|---|
メリット | 先行研究が見つけやすい/大学進学や進学後の研究に有益 |
デメリット | 専門性が高い場合は、大学(先生、学生)や専門家のサポートが必要になる |
文部科学省の挙げる課題例
以上、探究のテーマ・課題の代表的な5つのカテゴリと、その特徴を解説しました。ここで指導要領に掲載されている課題例も挙げておきます。分類の仕方は少し違いますが、課題の参考にしていただければと思います。
横断的・総合的な課題(現代的な諸課題)
外国人の生活者とその人たちの多様な価値観(国際理解)
情報化の進展とそれに伴う経済生活や消費行動の変化(情報)
自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題(環境)
高齢者の暮らしを支援する福祉の仕組みや取組(福祉)
心身の健康とストレス社会の問題(健康)
社会生活の変化と資源やエネルギーの問題(資源エネルギー)
食の問題とそれに関わる生産・流通過程と消費行動(食)
科学技術の発展と社会生活や経済活動の変化(科学技術) など
地域や学校の特色に応じた課題
地域活性化に向けた特色ある取組(町づくり)
地域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組織(伝統文化)
商店街の再生に向けて努力する人々と地域社会(地域経済)
安全な町づくりに向けた防災計画の策定(防災) など
生徒の興味・関心に基づく課題
文化や流行の創造や表現(文化の創造)
変化する社会と教育や保育の質的転換(教育・保育)
生命の尊厳と医療や介護の現実(生命・医療) など
職業や自己の進路に関する課題
職業の選択と社会貢献及び自己実現(職業)
働くことの意味や価値と社会的責任(勤労) など
引用:目標を実現するにふさわしい探究課題(【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説)
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「3.生徒の学習レベル」を考慮する
最後の3つ目は「生徒の学習レベル」です。
1.誰が決めるのか
2.何を選ぶのか
3.学習レベル
「生徒の学習レベル」によって、ここまで見てきた「誰が決めるのか」「何を選ぶのか」という選択肢を検討します。
例えば、生徒だけでは適切なテーマ・課題は決められない、と判断されれば、先生が決めるか、先生が選択肢を出して生徒に選ばせた方がいいでしょう。
テーマ・課題の選択肢を出す場合でも、自ら調べる能力がまだ少ない生徒が多ければ、資料集めがしやすい「総合的(現代的)なもの」を出す、学習のモチベーションがあまり高くない生徒が多ければ「職業・進路に関するもの」「地域や学校に関わるもの」からテーマ・課題を設定する、などです。
学年によって徐々にレベルを上げていく方法も
探究学習に期待されているのは「主体的・対話的で深い学び」です。しかし、いきなりは難しい。これは先生方がみなさん感じていらっしゃることだと思います。ですので、
1年生は取り組みやすいテーマ・課題を先生から指定して、探究学習の型に慣れる
2年生では少し進めて、レベルの高い複数のテーマ・課題から生徒に選ばせる
3年生では自分でテーマ・課題を設定させる
など、入学から卒業までの時間軸でレベルアップしていくやり方もあります。
さて、ここまで
・誰が決めるのか
・何を選ぶのか
・学習レベル
の3のポイントを見てきました。テーマ・課題選びについて、具体的なイメージを持ってもらえましたでしょうか。
その他に考慮すべきこと
最後に、3つのポイント以外に考慮すべきことを簡単にまとめておきます。
先生の指導負担
探究学習には先生のサポートが欠かせません。一般的な教科学習と違い、探究学習で先生に求められるのは、ファシリテーターやコメンテーター的なスキルだといわれています。
探究学習という新しい指導について、先生自身が調べたり、覚えたりすることもあると思います。ただでさえ忙しい先生の、指導負担が急激に大きくなりすぎないことも考慮すべきです。
探究学習のグループ人数
探究学習は1人~グループで行います。グループであれば、人数が増えれば増えるほど、話がまとまらなかったり、サボる生徒が出てきたりと、ファシリテートは難しくなります。適正な人数でグループを作ることが大切です。
探究学習スケジュール
探究学習は1日から行えます。
もちろん深い学びを得るためにはある程度の期間が必要です。一ヶ月なのか、半年なのか、一年なのか。まずは短めの探究学習を行って、先生も生徒も探究に慣れるということが最初のステップかもしれません。
長期的、学校全体の視点でみると1~3年生で探究スキルをどう伸ばすか、という視点もあります。
連携できる団体、サポーター
地域や教育機関、企業などに協力してもらうことができれば、探究学習の深みがずっと増します。
地域活動では、商店街や商工会、さまざまな施設などとつながることができれば、フィールドワークや取材を通じて地元ならではの探究学習が行えます。
大学や専門学校、企業にサポーターになってもらえれば、より学術的、実用的な探究学習になり、大学進学や就職にも好影響が期待できるかもしれません。
図書館などの利用
子供たちは、いや大人でさえも、インターネットでなんでも調べられると思いがちです。探究学習も、インターネットでちょっと調べて終わり、意見もインターネットの評論からつまみ食いしてまとめる、という浅い学習になってしまうことが懸念されます。
インターネットには確かに多くの情報がありますが、正しい調べ方を知らないと不確実な情報しか集められませんし、インターネットにはない情報もたくさんあります。
学校図書館や地元図書館などの利用が可能か、どういう資料が閲覧できるかなども、テーマ・課題を深める上では重要です。
まとめ
探究学習のテーマ・課題設定に ついて、
・誰が決めるのか
・何を選ぶのか
・学習レベル
という3つのポイントから解説しました。無数にあり得るテーマ・課題ですが、初めて探究学習に取り組む先生、経験はあるけどもっと改善できると感じていらっしゃる先生たちの参考になれば幸いです。
【参考資料・サイト】
高校教員のための探究学習入門(佐藤浩章)
高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編(文部科学省)
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。