この記事では探究学習の評価によく使用される「ルーブリック評価」について解説します。
ルーブリックが探究学習の評価に適している理由と利用する4つのメリット、実際に評価を作成する手順や注意点まで紹介しますので、ルーブリックってなんだ?作ろうと思っているけどどうやって作ったらいいの?という方はぜひお読みください。
まず結論をご紹介してから詳細を解説していきます。
ルーブリックが探究学習の評価に適している理由
探究の成果を多角的かつ公正性をもって評価できるから
ルーブリック4つのメリット
・生徒のポートフォリオを適切に評価できる点
・対話を通じて評価基準を作成できる点
・生徒と現状・目標を共有できる点
・保護者への説明責任を果たしやすい点
ルーブリック評価を作る手順
・課題を集める
・複数の評価者によって作品を評価する
・協働的に記述語を作成する
・評価を見直す
記述語作成の注意点
・質的なハードルを適切な間隔で区切ること
・基準と徴候を明確にすること
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ルーブリック評価とは
「ルーブリック評価」とは、生徒の学習達成の度合いを観点別に評価する方法のことで、ポートランドの名誉教授ダネル・D・スティーブンスが提唱しました。
「ルーブリック表」という評価基準が記載された表を用いて評価します。
一般的には表の行に評価項目、列に到達レベル(数値や言葉)を記載し、セルの交わった部分に評価の基準を詳しく書きます(『記述語』といいます)。
具体例として、英語のプレゼンテーション能力を評価するルーブリックをお見せしますね。
行(縦の項目)が評価項目、列(横の項目)が到達レベル、表の中のテキスト「リサーチに深みがあり、独自の切り口と自分の知見も盛り込んでいる。」などが記述語です。
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ルーブリックを使う理由:探究の成果を多角的かつ公正性をもって評価できる
ルーブリック評価の特徴は、複雑で客観的評価が難しかった学習成果を「多角的、かつ公正性をもって評価できること」です。
プレゼンテーションや絵画など数値で評価しにくい成果は、先生によって評価が分かれることがあります。
例えば基準を設けずプレゼンを評価した場合、先生によって「文法的正しさ」を重視したり、「表現力の高さ」を重視したりと、同じプレゼンでも生徒の評価が大きく変わってしまうといったケースがありえます。
しかし、ルーブリックを使えば評価すべき項目が複数設けられ、基準も明文化されているため、生徒の能力を多角的かつ公正に評価できます。
これは探究学習の評価でも同じことですよね。
探究学習は、テストのように○か×のような単一の基準で評価することはできません。ですので、最終的な評価はやむをえず先生の主観に委ねられるケースもありました。
しかし、ルーブリックで評価基準を明確にしておけば多角的で公平性のある評価が可能になります。
ルーブリックはこれらの特徴を生かして、学校現場にとどまらず、企業の人事評価や社員のキャリアアップの指標にも使われています。
ルーブリック評価のメリット
ルーブリック評価の特徴は、客観的評価が難しかった学習成果を多角的、かつ公正性をもって評価できることでした。
ここでは探究学習にルーブリックを使用する、より具体的なメリットを4つ紹介します。
1.生徒のポートフォリオを適切に評価できる点
1つ目は、生徒のポートフォリオを適切に評価できる点です。
ポートフォリオとは、生徒の作品や教師の評価記録などを体系的にまとめたもので、探究学習の評価対象に使われることが多いものです。具体例を挙げますね。
・資料集(探究の過程で収集した資料や、それをまとめたスクラップ帳、取材記録など)
・研究論文(生徒が作成した作文、レポートなども含む)
・作品(絵画、造形物、演奏、ダンスなど)
・評価記録(自己評価、教員などによる他者評価)
・発表用資料(模造紙の発表資料、パワーポイント、企業への提案資料、など)
探究学習では成果を出すまでの過程(取材、グループディスカッション、プレゼンテーションなど)を評価する場合も多いため、学習の過程がよくわかるポートフォリオ評価がよく採用されます。
そして、ポートフォリオ評価では、数値では測れない生徒のスキルを多角的に見極めなければいけません。
ルーブリック評価を使えば、点数で測れないポートフォリオのレベルを可視化でき、作成までのプロセスも含めて多角的に評価できます。
2.対話を通じて評価基準を作成できる点
2つ目は、対話を通じて評価基準を作成できる点です。
例えば英語のプレゼンを評価する場合、先生が流暢さだけを評価すると、生徒が他の観点(論理的表現力など)で努力していて、優れていたとしても評価を受けられません。
生徒は自分の努力や成果を評価してほしいと思うでしょうし、評価対象に入らないことで成長の余地があることに気づけず、成長の機会を逃す恐れもあります。
そこで、生徒と先生が話し合ってルーブリックに「流暢さ」に加えて「論理的表現力」という新たな観点を盛り込めば、より生徒のパフォーマンスを正確に見極められますし、今後の成長機会にもつながります。
また、当初作った評価項目が適切でないと感じた場合は、生徒か先生どちらかの提案で評価基準を変えることもあります。設定はしたものの、不要だと分かった項目を削除することもあります。
このようにルーブリック評価は生徒と先生が対話を通じて、適切な評価基準を作成してくことができるのです。
3.生徒と現状・目標を共有できる点
3つ目は、生徒と目標を共有できる点です。
ルーブリック評価は評価基準が明文化され、生徒にも公開されています。したがって、ルーブリックを前に、生徒と先生が対話しながら、現状やこれから目指すべき目標を確認し合い、共有することができます。
先生はどんな指導をすべきか分かりますし、生徒は次のレベルにステップアップするためにどうすればいいか、何を勉強すればいいかも明確になります。
4.保護者への説明責任を果たしやすい点
4つ目は、保護者ともルーブリックを共有することで、評価の説明責任を果たしやすい点です。
繰り返しになりますが、探究学習で育成したい課題設定力、情報収集力や分析力、発表スキル等は数値での評価が難しい側面があります。
したがって探究学習のような複雑な学習に関して、保護者への評価の説明が難しいのはご承知の通りです。
しかし、ルーブリックを保護者と共有すれば、評価に関する説明もしやすくなります。生徒が以前と比べてどれだけ成長して、いまどの段階にいるか、先生は次の目標に向かうためにどのような指導をしていて、生徒はどんな努力をしているか。ルーブリックを見ながら話せば保護者の納得感も高くなるでしょう。
ルーブリック評価作成の手順
ここからはルーブリックの具体的な作成手順を解説します。
ルーブリック評価と一口に言っても、ポートフォリオや生徒の目標によって中身は大きく変わってきます。
ルーブリック評価は、観点と適用期間よって主に次の4つ分けられます。
・全体的ルーブリック:学習成果全体の印象を評価。観点は一つだけ
・分析的ルーブリック:複数の観点を設定して評価する
・特定課題ルーブリック:特定の課題から作られるポートフォリオの質を評価する
・長期的ルーブリック:長期にわたって生徒の成長プロセスを段階に分けて評価
探究学習では、分析的ルーブリック、もしくは特定課題ルーブリックを用いる場合が多いと思います。
ここでは「探究成果をポスター作品にまとめる」という架空の特定課題を例に、特定課題ルーブリック作成の手順とポイントを解説します。
すでに探究学習を行っている場合
ここで紹介する特定課題ルーブリックの作成方法は、ルーブリックを作成する前にまず生徒に課題に取り組ませ、その成果物をもとにルーブリックを事後的に作成する方法です。
すでに行っている総合学習や探究学習の課題を変えず、評価にルーブリックを導入したい場合は、過去の成果物をもとに、この方法ですぐにルーブリック作成に取り掛かることができます。
これから新しく探究学習を始める場合
新たにスタートする探究学習にルーブリックを導入する際は、事前に評価観点を設定して仮のルーブリックを作成しておき、探究の過程や、実際に成果物ができた後で、今から紹介するプロセスを行い、ルーブリックを見直していく方法をとることもできます。
その場合でも、以下のプロセスはルーブリック作成の参考になると思います。
ルーブリック評価を作る手順
・課題を集める
・複数の評価者によって作品を評価する
・協働的に記述語を作成する
・評価を見直す
作成手順1.課題を集める
まずは複数の生徒に「ポスター作成」という同じ課題を与え、できた作品を集めましょう。
すでに過去の作品がある場合は、それを参照します。
作成手順2.複数の評価者によって作品を評価する
次に、複数の評価者と協力して、それぞれの作品が目標を十分に満たしているか数段階のレベルに分けて吟味します(①目標に十分達している、②目標に達している、③目標に達していない、など)。
このときは、個々の評価者がそれぞれの視点で評価し、評価し終わるまで他の人の評価は見ないものとします(他の人の評価に左右されないため)。個別に作品の評価用シートを配っておくといいかもしれません。
他の人の評価に左右されないことと同じくらい重要なのが、同じ人の中でも視点がブレないことです。作品ごとに観点を変えたりすると適切な評価につながりません。評価者は各自であらかじめ、こういう観点で評価しよう、と視点を定めておいたほうが良いでしょう。
それぞれの評価が終わったら評価結果を共有し、評価が一致したものについて、なぜ一致したか、その特徴を話し合います。
作成手順3.協働的に記述語を作成する
レベル分けされた作品を見ながら、それぞれのレベルの作品にみられる共通の特徴を観点別に分け、レベルに応じて記述語にしていきます。
例えば「基準を満たす作品は共通して、複数のイラストや写真が使われている」「基準を満たす作品は吹き出しや装飾などが適切に使われており、主張したい部分を強調する工夫がある」「基準を満たさない作品は共通して文字が整列しておらず見づらい」などといった、特徴を出していって、まとめあげていきます。
このプロセスでよくある失敗は、最初に評価の観点(評価項目)をたくさん設けすぎて、評価の負担が増えてしまったり、評価自体ができなくなったりしてしまうことです。例えば、模造紙一枚のポスターを10個の観点で評価することは難しいでしょう。観点を増やしすぎてもそれらを使い切ることができなければ意味はありません。
作成手順4.評価を見直す
ここまででルーブリックはいったん完成しますが、実際に評価を行ってから見直すことも重要です。
先ほども述べたように、対話的に評価を作成・見直しできるのもルーブリックのメリットの一つです。適切な評価ができているか、生徒の成長につながる評価になっているか、などの観点から、定期的にルーブリックを見直してみてください。
記述語作成の注意点
ルーブリック作成で特に重要なのが「記述語」です。記述語に関する注意点を紹介しますので、作成の参考にしてください。
注意点1.質的なハードルを適切な間隔で区切ること
記述語を作成する際に、質的なハードルを適切な間隔で区切ることが一つ目のポイントです。
ルーブリックが示す評価基準(記述語)は、知っていれば誰でもできる、というような単純で低いハードルではなく、生徒が質的にレベルアップする転換点に沿って区切られる必要があります。
例えばポスター作成において、「吹き出しや装飾を使う」は知っていれば誰でもできますが、「吹き出しや装飾などで主張したい部分を適切に強調する」ことは、ただ知っているだけではできません。ここには質的なハードルがあります。
もう一つ例を挙げます。英語のプレゼン課題で流暢さを評価するとしましょう。すんなり言葉が出てくる生徒もいれば、その生徒と同じ語彙力であるにもかかわらず、カンタンな単語すら言葉に詰まる生徒もいます。単語を頭でわかっていても、流暢に話すには練習が必要です。ここにも質的なハードルがあります。
上の例のように、記述語は質的なハードルに沿って、レベルを区切る必要があります。
適切な間隔の目安としては、評価を行う際に生徒が躓きやすいポイントを、生徒自身に自覚させるようにレベル分けすること、また、レベルとレベルの間が難しすぎず、簡単すぎないことなどが挙げられます。
注意点2.基準と徴候を適切に設定すること
記述語作成のもう一つのポイントは、「基準」と「徴候」を適切に設定することです。
基準と徴候の定義を以下に記載しました。
基準:知識・技能の差を各レベルで具体化したもの
徴候:基準を満たしている生徒の行動、行動特性
言葉は難しいですが、「基準」=評価基準、その基準を満たしている生徒なら、こういう行動ができているはずだよね、というものが「徴候」です。基準と徴候は間違えやすいので注意してください。
ポスター作品で例を挙げます。こちらは正しい組み合わせ例です。
基準:見やすさに考慮して作品づくりを行っている
徴候:写真やイラストを複数使う、装飾などを適切に使用している、文字のきれいさ・フォント・整列を意識しているなど、見やすさに対する工夫が2つ以上行われている。
例えば「見やすさに考慮して作品づくりを行っている」ということを評価したいのに、基準に「写真やイラストを複数使う」を設定したらどうでしょうか。写真やイラストが1点しか使われていなくても、相手にとって見やすい作品は存在します。このように基準と徴候が適切に設定されないと、評価も適切に行うことができません。
まとめ
ここまで、ルーブリック評価について、作成手順や注意点を紹介しました。
ルーブリック評価は多角的、かつ公正性をもって評価が行えるため、探究学習に適した評価方法です。作成には難しいところもありますが、ポイントを押さえて作成すれば、生徒の探究学習の適切な評価、これからの成長にもつながります。その喜びを保護者や生徒自身とも共有できる、メリットの多い評価方法です。
ルーブリックを作ったことがない先生は、これまでの総合学習などで生徒が作った作品やレポートなどを用いて、同僚の先生と簡易的なルーブリックを作ってみることなどから始めてみてはいかがでしょうか?制作の過程で生徒の努力や工夫が見えてきて、もっとここを評価してあげたい、伸ばしてあげたい、などが出てくるかもしれませんよ。
ただいま、ルーブリック評価のテンプレート(エクセル)を無料配布しています。課題設定や情報収集力といった「探究プロセス」の評価、創造力などの「探究成果」の評価、計画力や自己表現力などの、学習のための「汎用的なスキル」、StudyValleyオリジナルの地域探究(防災マップ)のルーブリックも掲載しています。
ダウンロードはこちら。
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当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。