探究学習

面白い探究テーマを設定する具体的な方法

探究プロセスの中でも最も難しいものの一つがテーマ・課題設定です。

前例のない探究学習をやらなければならない。しかも忙しくて詳しく調査する時間はない。そんな先生たちにとって、生徒の主体的な学びにつながる「面白い探究テーマ」を探すことは切実な問題だと思います。

この記事ではそんな先生向けに「面白い探究テーマ・課題」の設定方法を解説します。

テーマは課題を包括する大きな概念(テーマ:環境に対して、課題:ゴミ問題のような)で、本来分けて表記すべきですが、この記事では特に断らない限り「探究テーマ」という表現で統一します。ここで紹介する方法はテーマ設定と課題設定両方に共通しているからです。

結論から申しますと「これを選んでおけば間違いないテッパンの面白探究テーマ」「意欲が高くない生徒でも目を輝かせて、楽しく探究できるテーマ」は、残念ながら存在しません。

しかし、生徒が自分の興味・関心に基づいて、主体的に取り組める面白い探究テーマを設定できる方法はあります。

まず「面白い探究テーマを設定すること」には以下の2種類があるものとします。

1.生徒が自分の興味・関心に基づいて、探究テーマを見つける

2.学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ

*「生徒が興味・関心を持つ探究テーマを与える」ではないことに注意してください。

そしてそれぞれ、以下のプロセスを設けることが必要です。

1.生徒が自分の興味・関心に基づいて、探究テーマを見つける
→生徒が自分の興味・関心に目を向けるプロセスを用意する

2.学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ
→体験、揺さぶり、調べ学習など生徒の興味・関心を喚起するプロセスを用意する

生徒全員の興味を惹きつける「面白い探究テーマ」はないし、設定するのも簡単ではない。これが現実です。しかし方法はあります。

具体的な方法と事例などを紹介する前に、まずは「面白い探究テーマ」の定義と、全員にとって面白い探究テーマが存在しない理由を確認しておきましょう。

面白い探究テーマ=生徒の興味・関心に基づいて主体的に取り組めるもの

まず、この記事での「面白い探究テーマ」という言葉を以下のように定義しておきます。

面白い探究テーマ=主体的な学びにつながる、生徒の興味・関心に基づいた探究テーマ

「面白い」にはいくつかの意味があります。

代表的なものは、「滑稽さや、笑いを伴うような面白さ(fun)」と「興味・関心をそそる、知的好奇心を喚起する面白さ(interesting)」です。探求学習の「面白さ」は、後者を指します。

探究学習が目指すのは「主体的・対話的で深い学び」です。

生徒が自らの興味・関心に基づいて「面白い(interesting)」と感じ、探究してみたいと思うテーマであれば、それは必然的に主体的な学びとなります。

全員にとって「面白い探究テーマ」が存在しない理由

その定義を踏まえて、生徒全員にとって「面白い探究テーマ」は存在するでしょうか。それがあれば苦労はしないのですが、残念ながらそのような探究テーマはありません。理由は生徒の興味・関心が一人一人違うからです。これは日々生徒さんと向き合う中でよくお分かりだと思います。教科でも人それぞれ好き嫌いがありますし、修学旅行や文化祭といった一見、楽しい学校行事でも様々な理由で参加意欲が低い生徒もいます。

探究も同じです。人気があるテーマがないわけではありません。生徒が興味を持ちやすい地元について探究する「地域探究」や、「キャリア・進路探究」などは実施している学校も多いです。しかしそれでも全ての生徒が面白いと思うわけではありません。

またこのような一見よいテーマを選んでも、「いかに生徒が自分事化できるか」という視点を持たないと、生徒の主体性が発揮されずに終わることもあります。これについては本記事後半の「2.学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ」で詳しく説明します。

面白い探究テーマを設定する方法

ここからは面白い探究テーマを設定する方法を解説していきます。

生徒にとって「面白い探究テーマ」を設定するには、以下の二つの種類があります。

1.生徒が自分の興味・関心に基づいて、探究テーマを見つける

2.学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ

1.生徒が自分の興味・関心に基づいて、探究テーマを見つける

一つ目は「生徒が自分の興味・関心に基づいて、探究テーマを見つける」。そのためには「生徒が自分の興味・関心に目を向けるプロセスを用意する」ことが必要です。

「生徒が自分の興味・関心に目を向けるプロセス」が非常に重要なポイントです。

なぜこのプロセスが重要なのでしょうか。生徒の興味・関心が大切なら「探究をやるから自分の興味・関心に基づいて面白いと思うテーマを決めてください」と指示すればいいのでは・・・?

いきなり考えさせても上手くいかないのは自分の興味・関心を自覚していないから

しかしそうすると、おそらく多くの生徒は考え込んで、固まってしまうのではないでしょうか。原因は、生徒自身が「自分の興味・関心を自覚できていない」ことです。

したがって急に「自分の興味・関心に基づいてテーマを決めなさい」と言われてもできないのです。

しかし、最初からできなくても不自然なことではありません。「与えられたものに受動的に取り組む」というのがこれまでの学校教育のパラダイムであり、それを乗り越えて「自ら課題を発見し解決する」というパラダイムへのシフトを目指すのが探究学習なのですから。

したがって、まずは自分の興味・関心ってなんなんだろう?ということに生徒が目を向けるプロセスが必要になります。

自由に決めていい
→自分の興味・関心がわからなくて決められない
→まず自分の興味・関心に目を向けるプロセスが必要

ここでは、実際に教育の現場で行われている具体例を紹介します。

具体例:みつかるスパイラル

ここで紹介するのは「みつかるスパイラル」という方法。(社)みつかる+わかるの市川力氏によって提唱されています。

市川氏は「探究プロセスにおいてどこが一番難しいかと言えば、自分ごととなる課題を見つけることだ」とし、その難しさを「突然、課題を見つけろと言われてすぐに降りてくるようだったら苦労はしない」と評しています。そこで課題を見つけるために市川氏が提唱するのが以下のプロセス。

● 街を歩き「なんとなく気になるもの」を探し、発見の感度を上げる。気になったものはメモや写真にとっておく(Feel℃ Walk)

● 特に気になったものを重点的に探索する(Focus Walk)

● 集まった情報を整理して紙にマップ化し、みんなと共有して自由に語り合う。ここで情報の発酵が起こり課題の種があらわれはじめる(Ferment Walk)

市川氏は、何気ない街歩きから自分ごととして取り組める課題を発見するプロセスについてこのように述べています。

「そもそも課題はすでに自分の内にあるとは限らない。実際に動いて、考え続ける中で生まれ出ることが多い。(中略)何気ない発見に触発されて思いつき仮説があらわれる。このおもいつき仮説は、わがことから生まれたものなので追究したくてたまらなくなる」

いきなりテーマや課題を決めなさいといってもそれは、そもそも興味・関心を自覚していない生徒には難しいものです。

むしろ、教室から出ていろいろな体験をすること、ものや人に触れることによって、興味・関心を刺激し、「なんとなく気になるもの」を集める、整理する、共有する。そうすることで、始めは気づかなかった探究のテーマや課題が発見されます。

生徒は実際にどういうところに関心をも持つのでしょうか?島根県の隠岐島前高校で行われたFeel℃ Walkでは、生徒たちは島を歩き、以下のような疑問を見つけました。

・海士の家はどうして玉ねぎを吊るしているのか?
・波の音を聞くとどうして眠くなるのか?
・レインボービーチの砂はどこから持ってきたのか?
・海士(隠岐の地名)にはなぜ信号が1台しかないのか

いかがでしょう。これを読んでいる先生の中には、「ここからこう深めていくと面白い探究になるかも」というヒントが見えているのではないでしょうか?

この段階ではバラバラの小さな探究の種に過ぎませんが、こういったことを繰り返し行っていくことにより、生徒が自分自身の興味・関心に目を向け、自分事として取り組める面白い探究テーマや課題を見つけていくことができます。

2.学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ

二つ目は「学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ」です。

探究学習では、生徒自らがテーマ・課題設定することを推奨しています。しかし先ほど紹介したように、慣れていない段階では生徒が自分で適切な探究テーマをすることが難しい場合があります。

また、探究の型に慣れるために、比較的短期間で取り組めるような探究テーマを先生が用意して取り組ませる、ということもあるでしょう。高校1年生には特に多いと思います。

こういった場合には探究テーマの設定において生徒は主体性を発揮することができません。しかし、与えられた探究テーマであっても、その与え方、出会わせ方によって生徒が興味・関心を持ち、主体的学びにつなげる方法はあります。

きっかけは「与えられたから取り組む」という外発的動機ではありますが、そこに今から紹介するプロセスを加えることで生徒の内発的動機も刺激するのです。その方法を3つ紹介します。

方法1:体験する

探究テーマと関係する場所に赴いたり当事者から話を聞いたり、という「体験」は有効な方法です。

例えば地域探究で、単に地元の地域振興策を考えましょう、というよりも、後継者不足に悩む農家で就農体験をしてみたり、利用者がおらず廃墟化した店舗や住居を視察したりといった「体験」を経由することで、単なる知識だった課題に興味・関心が芽生え、主体性を持ちやすくなります。

学校の外に出るだけではなく、学校に人を招く方法もあります。例えば、進路探究で卒業生や企業の人を呼んで講演やディスカッションを行う、などです。

注意点は、体験すれば誰でも主体性を持てるかというと、必ずしもそうではないことです。なにを体験させたいのか、なにを考えさせたいのか、どのような課題を持たせたいのかをあらかじめ想定して体験をデザインしたり、体験の提供者と打ち合わせをしておくことも場合によっては必要です。

方法2:揺さぶりをかける

生徒にとってありきたりと思えるテーマでも、そのテーマに対する認識に「揺さぶりをかける」ことで新鮮な興味・関心が引き起こされます。

知っているつもりが、実は知らないと気づかせることが探究心につながる

人は「知っていると思っていたのに、実は本質をなにも分かっていなかった」と気づいたとき猛烈に「探究したい!」という気持ちが湧き起こります。これを意図的に行うのが「揺さぶり」です。

このことに注目したのが小学校教師・教育学者の有田和正氏です(有田氏は『追究』という言葉を使っています。広義には探究と似た概念だと思ってください)。有田氏の育てた、夢中で追究を行う子供たちは「追究の鬼」と言われました。

ポストの授業

子供たちを揺さぶるとはどういうことでしょうか。具体例として、有田氏の考案した「ポストの授業」を紹介します。

・先生は「ポストを知っていますか?」と問いかける
・子供は「当然知っているよ!」と反応する
・「それでは紙にポストをできるだけ正確に描いてください」と指示する
・子供は当然知っていると思っているのに、実は何もわかっていないことに気づく
・結果、滑稽なポストの絵が多数出来上がる
・「ケント紙でポストを作ってみよう」とさらに揺さぶりをかける
・「取り出し口はどこだっけ?」「投函口の形は?」など自然と論争になる

子供たちは正解が知りたくてたまらなくなっていて、この流れを経てから正解を出すと、子供たちの食いつきもまるで違います。そして、先生が「調べてきてください」などと指示しなくても、学校の帰り道に進んでポストを調べるのです。

地方のデパートは常に一人勝ちするのか?

探究テーマで人気のある「地域活性化」の文脈でひとつ例をあげてみます。

「駅前デパートができたことが原因で、昔ながらの商店街が客を奪われ廃れてしまう。外から来たデパートだけが一人勝ちする。」という話を聞いたことがあると思います。これは常に正しいのでしょうか?

福島県石巻では、駅前にデパートができて、たしかに商店街は客を奪われてしまったのですが、その後デパートも撤退してしまいます。その理由はわかりますか?商店街からデパートへの売上の移動という一面的な理解だけだとわからないですよね。デパートは商店街から客を獲得できたものの、それだけでは採算が合わず、さらに郊外店への客の流出などが重なり撤退を余儀なくされました。

「無意識に限定された地域の範囲で考えている」「商店街の脅威は新しくできたデパートだけ」など、既存の認識にうまく揺さぶりをかけることができれば、「そもそも商店街は何をすればよかったんだろう?」「デパートのオーナーだったら出店する前に何を調べておけばよかったんだろう?」など新しい興味・関心が生まれてきます。

方法3:興味・関心を探すための「調べ学習」

これは学校がテーマを指定し、生徒が課題を設定するパターンにおいて有効な方法です。

「調べ学習」は探究学習のサイクルの中では「情報の収集」「整理・分析」のプロセスにあたります。これは「課題設定」のあとのプロセスです。

ここでは、興味・関心を探すために課題設定の前に行う「調べ学習」を提案します。

生徒が学校が用意したテーマに関心がないことは往々にしてあります。

この原因は、単純に生徒がそのテーマについて良く知らないから、ということが少なくありません。

例えば、「自分の進路について探究しよう」といっても、それまで仕事について考える機会がなかったり、そもそもどんな職業があるのか?どんな業界があるのか?など職業にまつわる知識が少なかったり、偏っていたら、興味・関心もわきません。

そこであわてて取って付けたような課題を設定するのではなく、まず時間をとり「調べ学習」によって「進路」に関連することを調べ、その中で持った疑問や興味・関心を探究の種にしていくのです。

「この仕事はこんなに稼げるんだ」「自分がいいなと思っていた仕事は将来なくなる可能性が高いかもしれないのか」「父親のしていた仕事は社会のこんな役に立っていたのか」など調べ学習を行うことで、興味・関心があらわれ、テーマに対して徐々に主体的になっていくのです。

まとめ

生徒全員にとって「面白い探究テーマ」はない、というところから出発して、それでも面白い探究テーマを設定するアプローチについて見てきました。

1.生徒が自分の興味・関心に基づいて、探究テーマを見つける
→生徒が自分の興味・関心に目を向けるプロセスを用意する

2.学校・先生が与えた探究テーマに生徒が興味・関心を持つ
→体験、揺さぶり、調べ学習など生徒の興味・関心を喚起するプロセスを用意する

「主体的学び」を実現するためのこれらのプロセスは、いずれも、簡単にできるものではありませんし、一定の時間の確保も必要です。

しかし生徒が「与えられたものに受動的に取り組む」というパラダイムから「自ら課題を発見し解決する」というパラダイムにシフトするために必要な「助走期間」や「準備運動」ともいえます。つい課題設定を焦ってしまいがちですが、ぜひこのプロセスについても検討してみてください。