「農業探究」の事例が知りたい
探究学習の事例をお探しの先生へ。
2022年から本格的に始まる「探究学習」。農業探究をどうやって教えたらわからない・・・そういったお悩みをよくいただきます。
そこで本記事では「農業の探究学習事例」を調査してまとめました。
テーマやねらい、実践のプロセスや結果なども掲載しています。授業の参考にぜひお使いください。
この記事で解説する事例
1.新潟県魚沼市の大自然で自給自足
2.コメ作りから調理・販売までを高校生が担う
3.観光型交流農園での活動を通し、地域とつながる
4.オーストラリアのそば栽培から、農業と気候・経済との結びつきを考える
5.演習林を活用して養蜂に挑戦
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農業の探究学習のポイント
農業の探究学習を設計するうえで重要なポイントは大きく2つ。
・探究で何を学ぶのかを明確にする
・評価を明確にする
「総合的な探究の時間」が探究的な学びを身につけるのに主眼が置かれ、テーマや課題に自由度があるのに対し、教科の探究は、探究的な方法で「教科に関する知識や考え方」を身に付けることも期待されます。
探究を通じて、生徒が教科の知識や考え方を身に付けられるようにデザインしておく必要があります。
またペーパーテストと違い、成果だけでなく探究のプロセスも評価の対象になるのが探究学習です。探究のプロセスを評価する方法を決めておくことも重要です。
事例をご覧になる際も、これらのポイントを踏まえて見ていただく良いかと思います!
それでは、農業探究の事例を紹介していきます。
【解説あり】農業の探究学習事例5つを紹介
新潟県魚沼市の大自然で自給自足
テーマ | 栽培、環境、地域活性化 |
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学習期間 | 1年間 |
実施校 | 明治学院高等学校 |
対象学年 | 2年生 |
学習のねらい
・都会の生活に慣れた生徒たち・教員が、新潟県魚沼市大白川地区で過ごすことで、自然の中で生活するための知恵を養う。
・自然の素晴らしさや怖さを体感し、地域住民と交流することで自然と共存する知恵を学ぶ。
・自炊生活を通して、生徒が自ら問題を発見し、それを解決するためのチームワークや積極的に取り組む姿勢、発想力を養う。
課題・実施の流れなど
活動場所は、新潟県魚沼市大白川地区に年間で借り上げている一軒家。1〜4泊の研修旅行を11回実施する。第1回目の訪問以降はグループに分かれ、現地で見聞きしたことをもとに「やりたいこと」「やるべきこと」を実践する。主な活動内容は以下の通り。
・4月1日頃:開村式、借家の清掃、地域への挨拶
・GW期間中:畑・田んぼの整備、山菜狩り
・校外HR休み:農作業、田植え
・7〜8月:地域でのボランティア活動(清掃など)、夏祭りへの参加(夏祭りには準備から携わり、子ども向けの手作りゲームを用意して出店している。)
・体育祭後の連休:農作物の収穫、炭焼き体験
・12月中旬:冬支度、民芸品製作(わら細工など)、保存食作り
・1月上旬:雪山体験(かまくら作り、スノーシューなど)
・春休み:雪山体験、次年度への引き継ぎ
結果
・虫嫌いだった生徒も苦手を克服しており、自然の中で生活することの楽しさを実感できた。
・共同作業を通して交流の輪が広がったという感想があり、農作業や自給自足生活を通してチームワークが向上した。
ポイント
休業期間や連休を活用し、現地で活動する機会を豊富に設けています。現地での体験的な学びが継続的にあることで、農業の知識の定着が期待できます。
また、自給自足での生活が求められる環境では農業が自分ごととなるため、農業の知識の積極的な吸収を促しています。
さらに、現地でのボランティア活動や行事にも積極的に参加しており、生徒たちが学んだことを地域に還元することができます。
コメ作りから調理・販売までを高校生が担う
テーマ | 農業、稲作 |
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学習期間 | 1年間 |
実施校 | 群馬県立勢多農林高等学校 |
学習のねらい
地方創生や農産物の輸出に挑戦する将来のスペシャリストを育成することを目指し、課題解決力や主体性を身につける。
課題・実施の流れなど
遊休農地で農業体験活動を行い、その後児童遊園地でおむすびの調理と販売補助を行う。連携している農家が、農地の提供や水田の管理、作業指導を行う。また、地域企業も体験活動の支援を行う。
活動の流れは以下の通りである。
・3月:農家・高校生・企業でコメ作りの打ち合わせ
→三者の役割分担や、農薬を控えたコメ作りという方向性を確認
・6月4日:代掻き(田んぼに水を張ってかき混ぜ、表面を平らにする作業)<有志>
・6月7・8日:田植え<高校の授業内で実施>
・8~9月:草刈り<有志>
・10月26・29日:稲刈り<高校の授業内で実施>
・11月16・23日、12月5日:脱穀<高校の授業内で実施>
・12~3月:精米・調理・販売<有志>
→親子を対象としたワークショップ「おむすびで結ぶるなぱあく」も実施。
高校生はコメ作りのストーリーを語り、子どもにおむすびの作り方を教える。
結果
・生徒へのアンケートでは、体験活動を通して「農業や公園、環境への興味が高まった」と答えた生徒が64%おり、体験活動は農業分野への関心を喚起することに役立った。
・「地域への愛着が高まった」と答えた生徒も61%おり、農業を通して土地の魅力を知ることや地域住民と交流することの楽しさを実感できた。
ポイント
使われていない農地や地域資源を活用し、農業体験や地域交流を実施しています。
この活動では、単に農作業を行って終わるのではなく、作ったコメを活かしてワークショップなどを通じて地域と交流します。生徒は農業を通して地域と繋がることで、農業の奥深さに触れられます。
観光型交流農園での活動を通し、地域とつながる
テーマ | 農業、地域交流 |
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学習期間 | 全9回 |
実施校 | 山形県立庄内農業高等学校 |
対象学年 | 3年生 |
学習のねらい
生徒への農作業技術の伝承や、地域貢献ならびに地域まちづくりに資すること。
課題・実施の流れなど
観光農園運営学習の一環として、高校の農場を活用し、地域福祉団体と連携して観光型交流農園を整備する。地域で協働し、ブルーベリーや有機野菜の栽培収穫体験等を行う。
第1回:農園計画づくりのワークショップ(オーガニック農法・観光交流農園づくり)
第2回:野菜苗の定植作業(なす・ピーマン・かぼちゃ・スイカ・ししとうなど)
マリーゴールドの混植、ヒマワリの播種
第3回:野菜苗の定植播種(ふだん草・ニンジン等)野菜・ブルーベリーの収穫体験、畑の除草作業、コスモスの播種
第4回:野菜とブルーベリーの収穫体験、除草作業
第5回:野菜の播種作業(ダイコン)、ニンジンも同時播種(コンパニオンプランツ)
第6回:西洋芝の播種体験(育苗箱への播種)
第7回:ダイコンの間引き・追肥作業、除草作業
第8回:学校祭(庄農祭の巨大絵作成)への参加、餅つき
第9回:野菜(ダイコン・ニンジン)の収穫体験
その他
・地域住民を招き、ディスカッションを通して地域の課題を見つけ出す。また、その解決策を授業の中で計画する。
・収穫物を「子ども食堂」に提供したり、農園を「孤立児童」の就業体験の場として提供したりする。
結果
・観光型交流農園の事業を通して、生徒の関心や意欲が高まり、社会性が培われた。
・事業の意義について考え、会話を通して表現する力が高まった。
ポイント
体験活動が中心の取り組みですが、地域住民と共に地域の課題を考え、解決策について考える時間も設けていることが重要です。
何のために活動していくのか、高校生としてできることは何かといった点について、地域住民と共に深めることで、その後の体験活動を有意義なものにすることができます。
詳細: 第3分科会(学校農場経営)
オーストラリアのそば栽培から、農業と気候・経済との結びつきを考える
テーマ | 地理、気候、食文化 |
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学習期間 | 通常授業の1コマ |
実施校 | 山梨県内の公立高校 |
対象学年 | 2年生 |
学習のねらい
南半球の優位性、広大な乾燥地域における農業用水確保の問題と工夫、食の安全について考える。
課題・実施の流れなど
「なぜ、オーストラリアで日本向けのそばが栽培されているのだろう?」という問いを起点に、南半球の気候や農業について考える。
・導入
「日本以外にどこで「そば」が生産されているのだろう?」と問いかけ、生徒の関心や探究心を喚起する。その後、中核の問いである「なぜ、オーストラリアで日本向けのそばが栽培されているのだろう?」を提示した。
・展開
「日本向けのそばは、オーストラリアのどこで栽培されているのだろう?」という問いに対し、生徒が持っている知識を基に予想させ、ワークシートの地図に書き込んでもらう。予想した場所とその理由を生徒同士で共有する。
また、オーストラリアの気候区分について考えてもらい、南半球の優位性に気づかせる。
・終結
再度「なぜ, オーストラリアで日本向けのそばが栽培されているのだろう?」と問い、授業で得た知識を基に考え直す。
結果
・「一つの問題についてつながりをもって答えが出せているのでわかりやすかった」という感想があり、生徒は農業について、気候や安全性の面とのつながりを意識して捉えられるようになったと考えられる。
・定期試験では、授業で触れたアメリカなどを事例とした問題では正答率が高かったが、授業で取り上げていない地域が対象になると正答率は低くなる傾向があった。このことから、習得した知識を十分に応用することができておらず、授業の終結部における発展的な問いの設定とその学習内容に課題があることがわかった。
ポイント
この授業では先生が問いを投げかけていますが、身近なテーマから問いを立てているため、生徒の興味を引くことができています。
また、「なぜ?」を問われる機会が多く、農業や気候に関する知識を深めながら考えることが求められます。したがって、表面的な知識を理解するだけではなく、知識を考える材料として活用する力を育成することができます。
さらに、複数の地域を比較し、それぞれの特徴について考える場面も多いため、教室の中にいながらも、世界の農業や気候についてイメージしやすくなっています。
詳細:「探究的解説」に基づく高等学校地理授業−ワークシートによる思考の可視化と知識の構造化を通して
演習林を活用して養蜂に挑戦
テーマ | 畜産農業、林業 |
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実施校 | 山梨県内の公立高校 |
対象学年 | 2年生 |
学習のねらい
高校周辺にある演習林(研究や教育のための林)を活用してプロジェクト学習に取り組む過程で、林業技術の習得や森林の魅力の発見、職業意識の醸成を促す。
課題・実施の流れなど
演習林を活用した多様なプロジェクト学習に取り組んでいる。山菜の栽培やメープルシロップづくりなど、さまざまな例があるが、以下ではニホンミツバチの養蜂について取り上げる。
・プロジェクトのきっかけ
演習林の周辺では、ニホンミツバチが電柱の空洞に巣を作っていた。そこで、ニホンミツバチを捕獲して養蜂・採蜜し、演習林の特産品として販売できないかと生徒が考えたのが始まり。
①巣箱づくり
チェーンソーで丸太をくり抜き、 3 個の巣箱を作った。 2 ~ 3 カ月間沢水につけ、アクを抜いた。巣箱の上部に雨よけ用の屋根をつけたり、丸太の側面にニホンミツバチだけが通れ,スズメバチ類が通れないサイズの穴をあけた。
②巣箱の設置
蜂の群れが飛来しそうな場所を選び、演習林に巣箱を設置した。3つの巣箱のうち、1つ目は見晴らしと日当たりが良い場所、2つ目は毎年巣が確認される電柱付近、3つ目は木陰で風通しが良い場所に設置した。ニホンミツバチを誘引するために巣箱内に蜜蝋を塗ったり、市販のルアーを吊り下げたり、周辺に蜜源となる草本を植えるなど工夫をした。
③結果
ニホンミツバチの群れを捕獲することはできなかった。うまくいかなかった要因は、屋根が小さく巣箱に雨が当たってしまったこと、巣箱の隙間から土や砂が入ってしまったことなどが考えられる。次回は、雨が当たらないように大きめの屋根を作る、巣箱を定期的に掃除するなどの改良を検討している。
結果
・生徒たちは、生物から生産物をとって販売することの難しさを体感しつつ、自ら新しいことを始められるという自信も得た。
・課題と向き合い改善していくという、探究学習の面白さも感じることができた。
ポイント
生徒自身の問いからプロジェクトが始まっているため、主体的に活動を進めることができています。
この取り組みは実践的なプロジェクトであり、 知識を頭で理解しているだけでは成功させることができません。知識を活用して行動に移す力が求められるため、農業スキルの習得に繋がります。
また、一度で成功するとは限らない、難易度の高いプロジェクトだからこそ、生徒自身で改善・改良していく余地があることもポイントです。生徒が自ら改善策を考えることも探究学習の重要なプロセスであり、思い通りの結果が出なかったとしても、仮説を立てたり改善策を発案する過程は積極的に評価できます。
詳細: 宮城県柴田農林高校における演習林を活用したプロジェクト学習
【高校の探究担当の先生へ】
当メディアを運営する私たちStudy Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、全国の高等学校様へ、探究スペシャリストによる探究支援と、社会とつながるICTツール「高校向け探究学習サービス『TimeTact』」を提供しています。
現在、探究に関する無料相談会を開催中です。探究へのICT活用や外部連携にご興味ある方、お気軽にご連絡下さい。ご予約はこちら(2024年3月現在、問い合わせが急増しております。ご希望の方はお早めにご連絡ください)。
【企業のCSR広報ご担当者様へ】
CSR広報活動の強い味方!
探究教育を通して、学校と繋がるさまざまなメリットを提供しています。
まずはお気軽に「教育CSRサービスページ」より資料をダウンロードください。
また無料相談も可能です。些細なご相談やご質問、お見積りなど、お気軽にご相談ください。
【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。