STEAMライブラリー

教材は新国立競技場!教科横断型学習で生徒の力はもっと伸ばせる。元高校教員がSTEAMライブラリーにかける想い〜株式会社ナスピア 山田 竜也氏〜

 
経済産業省「未来の教室」が運営する「STEAMライブラリー」に参画している株式会社ナスピアは、東京2020オリンピックを機に建設された新しい国立競技場を題材にした「『杜のスタジアム』にみる次世代都市づくり」というコンテンツを提供しています。

今回は制作の経緯やそのポイントなどを株式会社ナスピアの山田竜也氏に伺いました。NHKの貴重な映像資料を使っているというコンテンツについて、元・教員目線での子供を惹きつけるポイントや授業の進め方のアドバイス、教科横断型で学ぶことのメリットなどを伺いました。
 

プロフィール

山田 竜也(やまだ たつや)
株式会社ナスピア 取締役CIO(最高情報責任者)
大阪教育大学大学院修了。 高校・高等専修学校で非常勤講師として勤務後、「かわべ天文公園」主任研究員などを経て株式会社ナスピアに参加。 甲南大学にて教鞭も執っている。

株式会社ナスピア
KNOWLEDGE(ナレッジ=知識)とSPEAR(スピア=槍)を合わせた社名。「楽しみ」「驚き」「意欲」を創造するものづくりによって社会に貢献しようとする会社。
大学での教材コンテンツ制作、NHK Eテレ番組WEBサイト制作など、教育系に特化した開発を行っている。

 
 
 
 
 
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「街づくり」は最高の教科横断型教材テーマ!

 
田中
田中
本日はよろしくお願いします。

早速なのですが、なぜ今回、「『杜のスタジアム』にみる次世代都市づくり」というトピックで教材を制作されたのでしょうか?経緯を教えて頂けますか?

山田氏
山田氏
以前、科学技術振興機構(JST)が企画した「理科ねっとわーく」というWEBコンテンツを、NHKエンタープライズさんたちと一緒に作っていました。そのとき関わった先生から、STEAMライブラリーの公募があるけれどやらないか、と声を掛けて頂いたのがきっかけです。

もともと教員時代から、STEAM教育のように教科横断型で学ぶ方が面白いし教育効果も高い、と考えていたので、ぜひやりたいと。

「理科ねっとわーく」でプロジェクトを主導していただいたNHKエンタープライズさんがバックアップに回ってくださり、ナスピア主体でコンテンツ作成を行いました。

NHKの貴重映像を教材に!旧国立競技場の解体から新国立競技場の建設まで

山田氏
山田氏
テーマに関しては色々なアイデアが出ました。その中でNHKエンタープライズさんが旧国立競技場を解体して、その後新しい競技場を建てていく様子をずっと撮影した、とても貴重な映像記録をお持ちだというところから、それを活用した教材にしようという話になりました。

せっかくなので新しい国立競技場の計画書から紐解いていって、都市づくりをテーマに、スポーツや芸術文化、歴史、技術やそれに関する数字など関連する分野を絡めた教科横断型の教材にすることになりました。

新しい国立競技場の建築風景

理科分野、スポーツから防災、伝統、バリアフリー、SDGsまで・・・先生泣かせな充実度!

田中
田中
国立競技場という建築物がテーマになっていますが、教科でいうとどのような領域にまたがっていますか?

山田氏
山田氏
たくさんの教科にまたがっていますよ。作りながら多すぎて泣きそうになったくらいです(笑)

物理、化学、生物の理科分野はまず全部入っていますよね。 建物の強度計算のところで物理が、コンクリートの成分についてとか、劣化に関しては化学が入っていますね。都市環境を作る上で緑地帯をどうやって作るか、どのような希少生物がいるのかなどは生物に関わってきます。

地学は防災についてですね。地震と水害が入っています。体育は当然ながらスポーツがありますので、市民スポーツと健康がどう街づくりと関わるのかを学べます。

あとは文化ですね。有形のものであれば、都市計画において、どう文化財などを保護するのか、無形のものであれば、お祭りなどの伝統をどう街が受け継いできたか。またユニバーサルデザインとかバリアフリーなどの観点は家庭科になります。

【『杜のスタジアム』にみる次世代都市づくりで学べる教科領域の例】
物理・・・建物の強度計算など
化学・・・コンクリートの成分、劣化についてなど
生物・・・緑地帯、希少生物の調査、林業など
地学・・・防災(地震、水害)など
体育・・・市民スポーツと健康など
文化・・・文化財保護、伝統の継承など
家庭科・・・ユニバーサルデザイン、バリアフリーなど

田中
田中
はぁー。なるほど!

山田氏
山田氏
泣きそうでしょ(笑)

田中
田中
はい(笑) でも、御社のコンテンツを見てから、新しい国立競技場をテレビなどで見るとまた違った発見がありそうですね。

山田氏
山田氏
そうだと思いますよ。都市計画においても、どういう想いや考えがあって作られているのか、色々な観点から学べると興味深いと思います。新しい国立競技場は木材をたくさん使っているので、林業に関しても触れています。

SDGsについても10のカテゴリーにまたがっていて、自分で見て「多いな!」と(笑)

先生がやりたいところだけ選んでOK。複数の教科の先生が組むのもあり

田中
田中
制作者サイドがそれほど苦労したのであれば、教える先生もどこからやったらいいか現場で悩んでしまうかもしれないですね。その点について、アドバイスはありますか?

山田氏
山田氏
そうですね。冒頭と終わりの部分は共通でやってもらうとして、あとは自分でやりたいところだけつまんでやってもらって大丈夫です。10コマありますけれども、最初と最後と自分がやりたい1,2コマでいいんですよ。

実証授業を拝見したのですが、中学校では理科と社会の先生が組んで、各グループに好きに選ばせていました。

東京都立の工業高校の建築科でやって頂いたときは、防災面がテーマだったので、防災のコマにフォーカスしてやっていました。工業高校には親和性の高いトピックですね。

田中
田中
先生や生徒さんの反応はいかがでしたか?

山田氏
山田氏
中学校の実証授業は新型コロナの影響で見学に伺えなかったのですが、中学生には少し難しかったようです。もう少し補足資料を用意した方がいいのかなと思いました。

高校は建築科の生徒だったので、内容に興味を持ってもらえて、授業もとても盛り上がっていましたね。ただ議論として成立させるのはなかなか難しかったようでした。「どうしよう?どうしよう?」って感じで、自分たちの意見を出し合って、ディスカッションしてまとめるというプロセスに慣れていないのかなと感じました。

田中
田中
ディスカッションの機会があまりないのかもしれませんね。でも内容が盛りだくさんなだけに慣れれば、絶好の教材になりそうですね。

山田氏
山田氏
そうなんです。あと先生方にも授業を撮影した動画を後でお見せしたら、「僕、こんな感じで授業しているのか。もう少し言い方を変えた方がいいかもしれないな」とおっしゃっていたので、先生にとっても良い経験にしてもらえたようです。

子供の興味はさまざま。だからこそ多面的な切り口を示すことが重要

様々な専門性を持つ人たちが集まって、建物、街が出来ていく
田中
田中
それにしても、国立競技場という一つのテーマで、ここまで多分野に広がり、違う見方ができるということはすごいことですね!

山田氏
山田氏
多面的に見ること、色々な切り口から考えることは大きいですね。生徒たちの興味も多岐に渡るじゃないですか。理科が好きな子、理科は嫌いだけと社会が好きな子、色々な子がいるので、色々な側面から見られた方がいい。自分の入りやすいところから入ったほうがいいですよね。

「こんな街はイヤ」?生徒に身近な「自分のまち」から興味を引き出す

田中
田中
御社のコンテンツを使う際に、先生がはじめにこんな問いかけをすると生徒から興味を引き出しやすい、という問いかけはありますか?

山田氏
山田氏
「議論になるような問い」をしてあげることがポイントですね。 例えばワークシート第1問目が導入の問いとして良いと思います。「自分の街の良いところと変えたいところを挙げなさい」という問いです。 この質問をすると、一人ひとりから色々な意見が出て、真逆の意見が出ることもあり、議論になって盛り上がるんですよね。

STEAMライブラリー「『杜のスタジアム』にみる次世代都市づくり」ワークシート
田中
田中
なるほど。例えばどんな意見が出るのでしょうか?

山田氏
山田氏
「ぼくはこんな古臭い木造の家ばっかりの街はヤダ。渋谷みたいな都会に住みたい!」とか。

田中
田中
正直ですね(笑)

山田氏
山田氏
そういう子も当然いますよね。一方で街の大人たちは「お金をかけても古い建物を残そう!」と話している。どうしてだろうという議論になりますよね。

田中
田中
確かに自分の住んでいる街のことであれば、自分事として議論も白熱しますね。

生徒の意見は違ってOK。結論を統一する必要はない

山田氏
山田氏
そうなんです。そうして自分の住んでいる街をどうアップデートしていくのかというところに繋げていくといいと思います。

実際、弊社コンテンツの10コマ目のまとめの回は、どんな街にしたいか書いてみようというワークシートになっています。当然一人ひとり意見は違っていてOKです。この結論に統一しようという学びではありませんから。

田中
田中
そうですよね。

山田氏
山田氏
最後に自分たちの住みたい街についてまとめてみる。おそらくその意見は北海道から沖縄までみんなバラバラでしょう。それでいいんですよ。

田中
田中
SDGsを社会課題の起点にしていきなり「さぁ、考えなさい、議論しなさい」と生徒に振るのは難しいですよね。SDGsってグローバルな課題ですし、抽象度も高いので、身近な課題として捉えづらいですから。

でも「自分の街の良いところ・変えたいところ」であれば、すごく身近で考えやすいですよね。素晴らしい問いです。

山田氏
山田氏
そうなんです。

元教員として伝えたいこと「ただ教え込むのはもう止めよう」

田中
田中
山田さんは高校の地学教員の経験をお持ちです。元学校の先生として、探究学習に挑戦する先生や御社のコンテンツを使いたい先生に何かアドバイスはありますか?せっかく元先生が作られているので、ぜひアドバイスを頂きたいです。

山田氏
山田氏
「教え込めばいい」という発想はもう止めた方がいいですね。 先生の仕事は生徒たちの成績向上だとすると、まず生徒たちがその内容を理解しなければいけない訳ですよね。理解することではじめて次につながるわけです。

そう考えると結局、生徒に興味関心を持ってもらわなければ先に進まないんですよ。興味がなければ、生徒は全然勉強しません。「こんなこと勉強して何になるの?将来役に立つの?」って私も教員時代、言われ続けました。

勉強のキッカケ作りに使ってほしい

山田氏
山田氏
だから「今、勉強していることと世の中は繋がっているんだよ、だから重要なんだよ」ということを伝えていく。そして興味があることから勉強してみればいいじゃないの、というキッカケ作りとして私たちのコンテンツを使って欲しいなと思いますね。

大事なのは、このコンテンツで理科なら理科、国語なら国語などの教科の内容をしっかり教えようと思わないことですね。それは正直しんどいと思います。

なぜ教科横断的な学習が必要なのか?そのメリットとは?

キーワードマップを見るだけでも、1つのテーマが多くの分野につながっているのがわかる
田中
田中
来年度から高校で探究学習がはじまりますが、STEAMライブラリーは「探究のネタ探しツール」としても良いですよね。

山田さんが探究学習のような教科横断的な学習に興味を持たれたのはなぜですか?

山田氏
山田氏
なんでしょう。はっきりとは分からないのですが、90年代に教員採用試験を受けて残念ながら落ちたので、非常勤講師をしていたのですが。

山田氏
山田氏
その教員採用試験の面接で「教科横断型で授業を展開したほうが面白いですよね」と面接官に答えたのを覚えてるんです。だから大学生の時からそういう感覚があったのかなぁ。高校生の時から、世界史とかも、この時代にこの地域ではこうで、あの地域ではああで、というように横軸で学ぶのが好きな学生でしたね。

田中
田中
そうだったんですね!

自分の専門だけで留まっていても仕方がない

山田氏
山田氏
私は地学が専門ですが、地学は地理とか歴史とすごく親和性が高いんですよ。それに地学には物理や化学、生物の知識も必要なんです。地学を専門にしていたから、地学だけで留まっていても仕方がないという感覚があったのかもしれません。

他教科の先生と連携することが生徒の「なるほど!」につながり、成績にも好影響

田中
田中
横断型の教育にはどんなメリットがあるのでしょうか?教科の専門性に特化した先生方にとっては、やりにくさがあるとも考えられますよね。そんな先生に、教科横断型学習に注目してきた山田さんからアドバイスはありますか?

山田氏
山田氏
他の教科とやったほうが生徒の理解が深まったり、成績が上がったりする教科もありますよね。地学もまさにそういう教科です。
私が高校で教えていたときも地理の先生と仲が良くて、ここは地理の先生に質問してね、ここは地学の先生に聞いてみてね、というように協力しあっていました。

扇状地を例に取ると、どのように扇状地が出来るのか、というでき方は地学で学びますが、土地活用に関しては地理の分野になります。

地学の授業中に生徒に地図帳を開かせ、扇状地を探させてどのような使われ方をしているかを言わせると、果樹園が多い、となる。なぜ果樹園が多いかというと水はけが良いから。水はけが良い理由は扇状地が砂地だから、と、扇状地の土地活用と扇状地のでき方は当然ながら密接につながっているんですよね。

それぞれの教科の先生が少しだけ他の教科の分野に関わりながら教えると、生徒の「なるほど!」を引き出しやすいと思います。腑に落ちるといいますか。実は教育効果は高いんですよ。STEAM教育も同じだと思います。

田中
田中
なるほど。興味深いです。次回のSTEAMライブラリーでも面白いコンテンツを期待しています。 本日は興味深いお話を聞かせて頂きありがとうございました。

山田氏
山田氏
ありがとうございました。

(画像出典:最後のスクリーンショットを除き、すべてSTEAMライブラリー「『杜のスタジアム』に見る次世代都市づくり」より)
 
 
 

田中悠樹 (インタビュワー)

「STEAMライブラリー」システム構築事業者である株式会社 StudyValleyの代表取締役

2011年にゴールドマンサックス証券テクノロジー部に新卒入社。株式会社リクルートホールディングスでは海外のVCを担当。
2020年に株式会社StudyValleyを設立。オンライン学習サービス「アンカー」や業務・学習支援ソフト「TimeTact」の開発や運営を行う。創業1年目でSTEAMライブラリーのシステム構築事業を受託。

 
 
 
 

STEAMライブラリーとは

経済産業省「未来の教室」が運営する、STEAM教育を通じてSDGsに掲げられる社会課題の解決手法を学べるオンライン図書館

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【この記事の監修者】

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

田中 悠樹|株式会社Study Valley代表

東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。