生徒が探究の成果を大会やコンテストに応募することに興味を持っているが、本格的な論文の書き方を指導できない
大学入試に探究の論文を使わせてあげたいが、自分も大学で論文を書いていたのはずいぶん前で、指導できる自信がない
私たちStudyValleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、高校の先生や塾の先生方へ、探究学習を効果的に行うICTツールの提供や、コンサルティングサービスを行っています。
その中で、先生方から冒頭のようなご相談をよくいただきます。論文に力を入れている学校では、高校1年生の早い段階で論文の書き方を講義で教える学校もあります。しかしそこまで着手できていない学校がほとんどではないでしょうか。
そこで探究論文を書くときの基本的なフォーマットを、「構成」と「表示方式」の2回に分けて解説します。この記事では「構成」について解説します。
この記事でわかること
・論文の基本的構成
・要約-的確に論文全体をまとめたものを
・目次-論文構成が見える目次を作ろう
・序論-問題提起と「仮説」の設定
・本論-研究手法・方法を述べる
・結論-研究結果とその評価
・図表一覧・グラフ一覧
・参考文献
・文体
なお、後編はこちら。引用、注釈、図表・グラフ、引用文献・参考文献の書き方について詳しく解説しています。合わせてお読みください。
>【徹底解説②】探究論文の具体的なフォーマットとは【表示方式編】
2つの論文を参考にしながらご紹介します。それぞれ高校と大学院の、いずれも学生が書いたものです。
参考論文①
「水中蛇型ロボットに脚をつけたら蛇足か?古代の化石から生物を再現して実証する」東京工業大学附属科学技術高等学校(佐藤諒弥/池田こころ/雄川綾太/濱中一星/山口海音)(2020)(第64回日本学生科学賞 科学技術振興機構賞)
参考論文②
「ジャニーズ育成による日本組織論」王旖旎/大藪毅(2014)慶応大学院経営管理研究科修士学位論文. 2014年度経営学 第2918号
探究論文に限らず、論文には世界で共通の基本的な書き方のフォーマットがあります。そのおかげで研究者は、たとえ外国語の論文であっても、スムーズに論文を読んだり書いたりできるのです。
ですので、論文フォーマットを一度覚えれば、大学でも、企業でも、海外でも応用して使えます。
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論文の基本的構成
標準的な論文の構成は次のようになります。
論文の基本的構成
1.論文タイトル
2.要約
3.目次
4.序論
5.本論
6.結論
7.図表一覧・グラフ一覧
8.参考文献
必須ではありませんが、最後に協力者への「謝辞」などを入れる場合もあります。
ボリュームに応じて分かりやすい章立てを
基本構成は上記のとおりですが、これはあくまで構成で、これがそのまま目次になるわけではありません。例えば、本論や結論はボリュームが大きいため、複数の章に分けて書かれることが普通です。
例えば参考論文①では、結論部分が「5. 考察」「6. 今後の展望」「7. 結論」と4つの章に分かれています。全体を見て、読みやすい章立てを検討してみてください。
では、各パートを説明していきます。
1.論文タイトル-わかりやすく、シンプルに
1. できるだけ簡潔で短く、わかりやすいタイトルであること
2. 適切で説明的な言葉を使うこと
3. できるだけ専門用語や略称を使わないこと
まず、タイトルは簡潔で文章としてできるだけ短く、わかりやすいことが望まれます。また、タイトルにはその論文の研究内容を説明、表現するのに最もふさわしいキーワードを2つくらい入れたものが良いでしょう。
そして、専門用語や長い単語の省略形を使うのはなるべく避けたほうが無難です。というのも、論文は一旦公表されると半永久的に残ることになります。そのため専門用語や略称を使うと、今から20年後にその論文を読んだ人がタイトルを理解できない可能性がでてきます。
論文のタイトルは、ちょうどお店等の「看板」のようなものです。看板は「この店では何を販売しているのか」ということを、限られたスペースで、的確な言葉で正しく、わかりやすく伝えなければなりません。論文タイトルをつくることも全く同じなのです。
では、実際の論文のタイトルを見てみましょう。参考文献①の論文タイトルは「水中蛇型ロボットに脚をつけたら蛇足か?古代の化石から生物を再現して実証する 」です。論文の仮説(=水中蛇型ロボットに脚をつけたら蛇足か?)と研究方法(=古代の化石から生物を再現して実証する)を的確に説明しています。またユーモアも交えた、短くても非常にインパクトのあるタイトルとなっています。
2.要約―的確に論文全体をまとめたものを
要約とは、そこだけ読めば論文の概要を理解できるよう、論文全体を短くまとめたものです。「サマリー」や「要旨」と呼ぶこともあります。
要約では、次のことを簡潔に読者に提示します。
1. 仮説(どのような研究を、どのような仮定を持って行ったのか)
2. 検証方法(研究手法はどのようなものを用いたのか)
3. 検証結果(どのような結果だったか)
さらに、結果が社会的に意義あるものである、他の研究に影響を与えるものであるなどの場合は、
4.結果の評価(その結果をどのように解釈すべきか)
を加えてもいいでしょう。
要約はできるだけ具体的に書いたほうが、読みやすいものになることが多いです。また、研究に至る経緯は思い入れがあればあるほど長くなりがちですが、本論と直接関係なければ、必要最小限に抑えるべきです。
実際の論文で確認してみましょう。参考論文①の要約(要旨)はこのようになっています。「仮説」「検証方法」「検証結果」「結果の評価」が書かれているかどうか、確認しながら読んでみてください。
1.要旨
海に囲まれた日本では、海洋研究は重要であり未知の事柄が多い。そのような様々な状況で活躍する水中探査ロボットは、人の立ち入ることが困難な環境での調査をする上で不可欠である。私達は、テトラポドフィスという1億1千万年前から1億2千万年前に生息していたと考えられている四肢のある蛇型生物の古代生物が存在したということを知り、従来の水中蛇型ロボットに脚をつけることにより機能性を向上させることが可能になるのではないかという仮説を立てた。実験は、テトラポドフィスの化石を基に蛇型ロボットを製作し、脚の役割について検証を行った。その結果、水中蛇型ロボットに手脚をつけることによって機能性を上げることが可能であった事から、水中蛇型ロボットに脚をつけても蛇足とは限らないことがわかった。この研究は、テトラポドフィスが生息していたと思われる様なきびしい環境下でも手脚を活用してスムーズに動き回ることができる水中蛇型ロボットの開発が目的である。さらに、この研究は、環境の変化により絶滅に瀕している水中の生物の研究にも貢献すると考える。
*下線は編集部による追記
1. 仮説=「従来の水中蛇型ロボットに脚をつけることにより機能性を向上させることが可能になるのではないか」
2. 検証方法=「蛇型ロボットを製作し、脚の役割について検証」
3. 検証結果=「機能性を上げることが可能」
4. 結果の評価=「水中の生物の研究にも貢献する」
という内容が網羅されていることがわかります。
3.目次―論文構成が見える目次を作ろう
目次はまず、最初の単位として第1章・第2章などの「章」があり、その後「1.1」, 「1.2」 のように続きます。そして、「1.1」のあとに「1.1.1」, 「1.1.2」と続きます。目次を見ただけで論文の内容がわかるような作りになっているのが理想です。
実際の論文の目次の形式を、参考論文②王旖旎/大藪毅(2014)「ジャニーズ育成による日本組織論 」の目次を参考に見てみましょう。
このように、目次を見るだけで筆者のおおよその内容や展開が伝わるのが良い目次です。
目次は論文の執筆前に作り、執筆後に再度見直すことをおすすめします。執筆前に目次を書くことで、論文の全体図を確認します。そして、一旦論文の本文を書くことに集中した後に再度確認し、目次に追加すべき項目がないか、不要なものはないか、論文全体の構成とともに再確認しましょう。
4.序論―問題提起と「仮説」の設定
論文本体の一最初にあたるのが、序論です。序論は「本論への導入部」という役割をもっています。「『研究の目的』と『研究方法』」等と複数の章がまとまって序論の役割を果たす場合もあります。
序論の役割を細分化すると 、以下のようになります。
1. 研究の背景を説明し、「問題提起」を行う
2. 研究の目的を明確にする
3. 先行研究と自分の研究の違いを明らかにする
4. 自分の「仮説」提唱し、研究方法を明らかにする
5. 次章以降の構成を明らかにする
必ずしも、5つすべてを網羅する必要はありません。「本論への導入」となっていることが重要です。
序論の具体的な例として、参考論文①を見てみましょう(ここでは『2.研究のきっかけと目的』『3.研究方法』が序論にあたる)。
2.研究のきっかけと目的
(前略)
例えば水中を泳ぐ古代生物をロボットで復元しても、本当の形と異なれば、うまく遊泳することはできない。しかし、理にかなった動きをするロボットとなれば、それが真の姿だと突き止めることができる「ロボ化石」(図2)という水中ロボットの新たな分野の可能性に触れた。この研究に出会ったことで、biomimeticsが重要性を帯びてきた現代で、過去から学ぶこの方法は可能性に溢れていると感じ、化石の形状をもとした蛇型ロボットを製作し水中探査ロボットの新たな形に挑戦したいと考えた。
(中略)
近年、外来種問題はさらに深刻化してきており、多くの地域で生物多様性を脅かし始めている。そもそも外来種問題とは、元々その地域に生息していた動植物が外来種の餌になり、動植物の生息環境を在来種から奪うことでその土地の生態系を崩してしまうことである。ここ数年で発見された外来種は2000種を超える。このための調査には人間が実際に川に入り、網や虫眼鏡などを使い、目視で調査を行うことが多い。これは、調査が行える季節や調査チームの人手等の点に課題が残る。これらの課題に取り組むために私達は、主に2つの目的を持って研究を行った。第一に古代生物テトラポドフィスの化石を基にしたロボットを製作し、どのような生物だったのかを確認すること。第二に、この化石ロボットの動きを基に水中蛇型ロボットの新たな形状や動きを発見し、さらに水中探査ロボットの新たな形状を提案する事で、外来種問題で影響を受けている水中生物の探査などに貢献することである。3.研究方法
「ロボ化石」の手法と「水中蛇型ロボット」の動きを参考に蛇型ロボットを設計・ 製作し、ロボ化石としてテトラポドフィスを復活させ、様々な比較実験を行う 。
(中略)
私達は、テトラポドフィスが水辺や岸に近い場所を移動していた生き物であると予想した。 私達が製作する ロボットの性能をこの様な生き物に近づけることで、水底の泥の巻き上げ問題や生き物を機械的な物で驚かさずに調査することが可能になり 、 さらには生物の外来種問題等を解決するための糸口になると考える。
*下線は編集部による追記
ここではまず、筆者が「ロボ化石」に出会いそれを応用して「水中探査ロボットの新たな形に挑戦したいと考えた」ことと、外来種にまつわる課題を述べています(1.研究の背景を説明し、「問題提起」を行うこと)。
そして、研究目的が「化石を基にしたロボットを製作し、どのような生物だったのかを確認すること」と「外来種問題で影響を受けている水中生物の探査などに貢献すること」の2つであることが明示されています(2.研究の目的を明確にする)。
そして最後に「テトラポドフィスが水辺や岸に近い場所を移動していた生き物であると予想した。」「ロボ化石としてテトラポドフィスを復活させ、様々な比較実験を行う」とし研究の具体的な内容に触れています(3.自分の「仮説」提唱し、研究方法を明らかにすること)。
このように、序論は本論への導入の役割を果たします。
5.本論―研究手法・方法を述べる
序論の次に来るのは、いよいよ論文の本論となります。基本的に本論では、序論で示した「仮説」に対して、どのような研究手法を使ってその「仮説」を証明しようとしたのか、を説明します。
具体的には以下の点に注意して書きます 。
1. 研究の材料や手順・方法などを説明する
2. 他人の研究成果や見解と、自分の主張を明確に区別する
3. もしも既存の研究方法を参考にした場合は、その引用先を明確にする。また自分なりに修正した場合は、修正した点も明確に記述する
4. 研究方法が全く新しいものの場合は、その詳細を事細かく記述する
では、実際の論文では、どのように本文で「研究手法」が説明されているのでしょうか。参考論文①では、研究手法に関する目次は以下の通りです。
3.研究方法
3.1テトラポドフィスの形態や生態に関する文献調査
3.2生きている生物のホライモリの動きを調査
3.3ロボット製作について
3.3.1ラジコン型水中蛇型ロボットの製作
3.3.2 ラジコン型水中脚付き蛇型ロボットの設計と製作
3.3.3制御方法について
3.3.4ラジコン型脚付き水中蛇型ロボットにおける各種比較実験
参考論文①では、実際の研究方法として「文献調査」と「ホライモリの観察調査」そして「ロボット制作」の3種類の手法が使われた事がわかります。このように、論文の本文では、研究手法をすべて正確に記述する必要があります。
6.結論-研究結果とその評価
1. 実施した研究の結果
2. 自分が立てた仮説が正しいものであったかという客観的な考察
の2つです。
さらに可能であれば、その研究結果が世の中にどのような影響を及ぼす可能性があるかなどを加えることができると、研究の意義が一段と高くなります。
7.図表一覧・グラフ一覧
研究テーマによっては、図表やグラフを多用する場合もあるでしょう。そのような人には「図表一覧・グラフ一覧」という形で、論文の中で通常の目次とは別に、図表やグラフだけの目次を作っておくことをおすすめします。論文にでてくるグラフのすべてのタイトル及びそのグラフの掲載されているページ数を記載します。
ちなみに図表やグラフの見出しの付け方は「探究論文の具体的なフォーマットとは。【表示方式編】」で改めて説明する予定です。
8.参考文献
論文の最後には、執筆に利用した参考文献のリストを載せます。この参考文献リストには、執筆の際に自分が参考にした情報はすべて、紙媒体はもちろん電子媒体も、すべて記載します。参考文献のリストも論文の審査員が必ず目を通す部分です。手を抜かず、しっかり作成しましょう。
具体的な参考文献の記載方法は、「探究論文の具体的なフォーマットとは。【表示方式編】」で述べますが、媒体別(書籍・雑誌・ネット情報・新聞記事等)に分類してから、著者名・著作名・発行年等を明記する事になります。
文体
論文の文体は、全体的に「ある・である」調に統一します。また、難しい言い回しはなるべく避けて、なるべくシンプルでわかりやすい表現にします。
終わりに
今回は基本的な論文の全体の構成フォーマットについて説明しました。
論文の基本的構成
1. 論文タイトル-わかりやすく、シンプルに
2. 要約―的確に論文全体をまとめたものを
3. 目次―論文構成が見える目次を作ろう
4. 序論―問題提起と「仮説」の設定
5.本論―研究手法・方法を述べる
6. 結論-研究結果とその評価
7. 図表一覧・グラフ一覧
8.参考文献
研究分野や研究論文の提出先などによって、フォーマットは異なる場合があります。しかし、基本的な論文の構成を学んでおけば、どのような分野の論文でも読んだり書いたりできるようになります。
論文の構成をマスターして、探究論文の執筆をスムーズなものにしましょう。
なお、後編はこちらです。
引用、注釈、図表・グラフ、引用文献・参考文献の書き方について詳しく解説しています。合わせてお読みください。
>【徹底解説②】探究論文の具体的なフォーマットとは【表示方式編】
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【この記事の監修者】
田中 悠樹|株式会社Study Valley代表
東京大学大学院卒業後、ゴールドマンサックス証券→リクルートホールディングスに入社。同社にて様々な企業への投資を経験する中で、日本の未来を変えるためには子どもたちへの教育の拡充が重要であると考え、2020年に株式会社Study Valleyを創業。
2020年、経済産業省主催の教育プラットフォームSTEAM ライブラリーの技術開発を担当。
2024年、経済産業省が主催する「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」に委員として参加している。