探究学習

探究なんてやってる時間はない!データで見る教員の過労問題と探究学習への具体的対応方法5つ

ただでさえ忙しいのに探究学習なんて、対応が難しい
探究には力を入れたいけど、時間の余裕がない。なにか解決方法は?

私たち Study Valleyは「社会とつながる探究学習」を合言葉に、高校の先生や塾の先生方へ、探究学習を効果的に行えるICTツールの提供や、コンサルティングサービスを行っています。

先生方とお話する中で、冒頭のようなご相談をよくいただきます。

この記事では、先生の労働状況の実体と、解決に取り組んで改善した事例、さらに2022年から本格的に始まる探究学習を効率的に進める方法を紹介します。

目次
過酷な労働環境に苦しむ教員の声
・日本の教員は働きすぎ
・1ヶ月の残業時間は96時間ごえ
・日本の教員は、世界最長の勤務時間
過労死や鬱のリスク
・精神疾患が蔓延する現場
・残業をめぐって裁判も
教員が忙しい3つの理由
1. 教員一人の担当する業務範囲が広い
2. 時代に合わせて増え続けるタスク
3. 人手不足
解決方法は?
・研修を行うことで内部からの改革を
・校務支援システムを活用した効率化
探究学習にどう取り組むか?
・学校でチームを作って取り組む
・外部のリソースを活用する
・「教える」から「ファシリテーション」へ発想を転換する
・事例をうまく活用する
・EdTechツールを活用する
まとめ

過酷な労働環境に苦しむ教員の声

教員の労働環境は非常に過酷な状況にあります。
実際、昨年の3月下旬ごろに文科省が開催した、SNS上で「#教員のバトン」というタグを使った教員の生の声を集める企画では、過酷な労働環境によって教職をやめたという方や鬱のような症状を持ちながら働いているという声が多く集まりました。

こちらはそのうちの一つを引用したものです。

Twitterより引用:「残業100時間超えたり、100連勤したり、働き方についていけないと言われて婚約破棄したり、適応障害になって休職したり、色々ありましたが、教員になったことは後悔してません。合唱コン、卒業式の感動は一生忘れません」

教員退職しました!!残業100時間超えたり、100連勤したり、働き方についていけないと言われて婚約破棄したり、適応障害になって休職したり、色々ありましたが、教員になったことは後悔してません。合唱コン、3担の卒業式の感動は一生忘れません。明日からは新たな道で頑張ります!!#教師のバトン

教員の労働環境は以前から決して良いものではありませんでしたが、SNS等によりその実体が可視化され、社会問題として広く知られるようになったと言えます。

日本の教員は働きすぎ

次に、日本の教員が過度に働いている現状について、2つのデータを参考に解説します。

1ヶ月の残業時間は96時間ごえ
日本の教員は、世界最長の勤務時間

1ヶ月の残業時間は96時間ごえ

日本教職員組合の「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」の結果によれば、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の教員の1日の残業時間は、平均2時間54分ということがわかりました。

これは、1ヶ月に換算すると96時間44分となり、文科省が残業時間の上限としている月45時間を倍以上超えているばかりか、いわゆる「過労死ライン」と言われる月80時間以上の残業を16時間以上も超えています。

参考:日教組「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」結果

日本の教員は、世界最長の勤務時間

また、日本の教員は、世界最長の勤務時間という調査結果もあります。

経済協力開発機構(OECD)の「国際教員指導環境調査」(2018)によると、1週間の教員(小学校)の勤務時間は、参加した48の国・地域の中での平均は38.3時間だったのに対し、日本は参加国最長の54.4時間となりました。

参考:教員環境の国際比較:OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書 ――学び続ける教員と校長―― の要約

過労死や鬱のリスクに

このような労働環境にある教員は、過労死やうつ病などのリスクに直面しています。

教員の過労死数等の明確なデータはありませんが、前述した教員の労働環境の悪さから過労死やうつ病等精神疾患のリスクが高いことが推測されます。

精神疾患が蔓延する現場

精神疾患で休職する教員は判明しているだけで毎年およそ5,000人、それも増加傾向にあります。

文部科学省の令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査の調査では、教育職員(※)の精神疾患による病気休職者数は、5,478人(全教育職員数の0.59%)で、平成30年度(5,212人)から増加していることがわかりました。

参考:令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査について

残業をめぐって裁判も

教員は残業代に相当するものとして教職調整額という、給与の約4%にあたる額が支給されています。これは1966年に文部省(当時)が行った教員勤務実態調査を基に算定したもので、そのときの年間ベースの1カ月当たり残業時間は約8時間から算出されています。

先ほど紹介た、日本教職員組合の「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」の結果によれば1ヶ月に換算すると96時間44分ですから、実態とはかけ離れた金額となります。

これをめぐっては裁判も起こされており、訴えは棄却されましたが、裁判長から、給与体系の見直しを含めた勤務環境の改善が要望されるなど話題になりました。

参考:教員残業代訴訟で地裁、勤務環境の改善求める “定額働かせ放題”の実態とは

教員が忙しい3つの理由

教員がこのように忙しい理由には、以下の3つが挙げられます。

1. 教員一人の担当する業務範囲が広い
2. 時代に合わせて増え続けるタスク
3. 人手不足

1. 教員一人の担当する業務範囲が広い

教員の業務には、大きく分けて以下の3つがあります。

教員の仕事 ・授業の準備
・成績評価
・進路指導
・学校行事の指導
・支援が必要な生徒への対応 など
学校運営の仕事 ・部活動
・校内清掃
・調査・統計への回答など
どちらでもない仕事 ・登下校に関する対応
・補導された生徒の対応
・夜間見回り
・外部機関との連絡
・PTA会費の管理

教員の仕事以外の仕事が多い

これらの仕事のほとんどを教員が担っています。原則は教員の仕事のみを担えば良いはずです。というのも、他の仕事は、必ずしも教員でなければできない仕事ではないからです。

こうした部活動や家庭訪問などの「業務」は時間外に発生したとしても教員の自発的行為とみなされます。これらは給特法*で認める時間外勤務(①生徒の実習、②学校行事、③職員会議、④災害時の緊急措置)の範囲外であり、予算や教員定数の措置対象となりません。

中央教育審議会は、2019年1月に教員および学校が担うべき業務について明確化し、部活動や夜の見回りなどは必ずしも教員が担う必要はないと明示しました。しかし、まだまだ多くの教員がボランティア的にそれら業務を行っているのが実態です。

特に学校運営の仕事の負担は大きいでしょう。部活動は外部遠征などの仕事を含めれば時間にはキリがありません。また2020年以降ではコロナ対応で飛沫防止の備品設置や除菌等の時間も増えています。

*給特法とは、「国立の義務教育諸学校等の教諭等に対する教職調整額の支給等に関する特別措置法」のこと。教員の勤務態様の特殊性をふまえて、公立学校の教員について、時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4パーセントに相当する教職調整額を支給することを定めた法律。

2. 時代に合わせて増え続けるタスク

時代に合わせた教育改革やカリキュラム変更は、必要なことであることは間違いありませんが、現場にとっては大きな負担になります。

最近はプログラミング教育や総合的な学習(探究)の時間といった、新しいカリキュラムへの対応が迫られています。この準備にあたり、授業の準備だけでなく機材の準備(タブレットなどICT機器の設定等)も必要になるためタスクが大きく増えてしまっています。

3. 人手不足

人手不足によって、教員一人当たりの仕事が増えてしまっているのも原因の一つと言えます。

文部科学省が令和3年に実施した調査では、公立の学校で合わせて2,065人教員が足りず、必要な配置ができていないことがわかりました。

教員不足の影響で、小学校で学級担任ではない教員や管理職が代替しているケースは474件に上り、中学校で、教科担任が足りず、16校で家庭科や数学、理科など必要な授業が実施できない状況が明らかになりました。

参考:「教員不足」に関する実態調査 文部科学省

教員志望者の減少

人手不足の理由には、教員志望者数の減少も原因にあげられます。
2021年の春採用された公立小学校教員の採用倍率の全国平均が2.6倍と、昨年度の2.7倍を下回ったことが文部科学省の統計でわかりました。

また、先ほど取り上げた毎年精神疾患による5,000人前後の休職者の補填もあります。

採用倍率の減少の幅は今はわずかにとどまっていますが、今後、若者人口の減少がさらに進むのは確実です。これを食い止めるために行われた施策の一つが冒頭取り上げた「#教員のバトン」運動だったわけですが、逆に労働環境の悪さを喧伝する結果となってしまいました。

労働環境の改善なくしては、志望者数増加もさらに悪化する懸念があります。

参考:文部科学省「公立学校教員採用選考試験実施状況調査」
参考:令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査について

解決方法は?

このような労働環境を改善することはできるのでしょうか?
ここでは「教員の研修」「システム活用」という2つのパターンで労働環境改善を実現した例を紹介します。

研修を行うことで内部からの改革を
校務支援システムを活用した効率化

研修を行うことで内部からの改革を

これは、大学の教授のサポートのもと、半年間をかけて管理職を対象とした「持続可能な働き方の実践研修」を行なった事例です。

研修は、横浜市の複数校で、数名の教員を募り、およそ5つのステップに分けて行われました。

①働き方の改革の現状、マインドの確認
②自校の働き方について調査
③自校の改善策を「決めるプロセス」を理解
④自校の働き方改善策の決定と実行
⑤これまでを振り返って、これからを考える

研修を踏まえて、参加者は以下のような改善案を検討、自校にて実施しました。

・地域コーディネーターや、特別支援教育支援員等を増やし、地域との協働を推進する
・校内の教員の意識改革のためのワークショップを開催
・部活動指導員利用、部活動ガイドラインの徹底と部活動なしデーを毎週 1 日設定。

この研修に参加し、後日、参加した管理職が継続して勤めている学校を取材したところ、働き方改革が継続的に進められ、時間外在校等時間やストレスチェックの結果に改善傾向が見られていたことがわかりました。

参考:Smile働き方改革通信No.8「教職員が働きやすく、学びやすい環境を」目指した実践研修を紹介します!

校務支援システムを活用した効率化

教育の効率化・個別最適化を促したり、教育にまつわる業務を円滑に進めるためのテクノロジーをEdTech(Education+Technology)と言います。

子供の学習履歴からAIが最適なレベルの課題を提案する学習の個別最適化ツールや、オンライン授業を支援するシステムなど様々なEdTechツールがあります。コロナ対応でGoogleのClassroomや、Microsoft Educationなどを導入した学校も多いと思います。

EdTechツールの中には校務を円滑にするシステムも多くあります。このようなシステムを導入することで、作業の効率化及び時間短縮が見込めます。

校務支援システムとは、多忙な教員の業務負担を軽減し、児童・生徒に必要な指導を行うために活用されているツールです。校務情報を集約し共有することによって、効率的に校務を処理することができます。

これまで学籍情報や成績管理・健康管理など、目的が異なる複数のシステムを導入する学校もありましたが、近年では、全ての情報を一元管理できる「統合型」システムも登場しています。

作業時間を短縮できる

このようなシステムを導入することで、教員の校務処理の時間の短縮が見込めます。

文部科学省のアンケートによると、校務支援システムを導入した71.6%の学校が「校務支援システム導入前と比較して、教員の校務処理の時間が短縮されたと思う」と回答しました。

参考:校務支援システム 導入・運用の手引き 文部科学省

探究学習にどう取り組むか?

2022年からは高校で探究学習が始まります。テーマを生徒が自ら選んで探究する探究学習では、テーマが多岐にわたることや、一斉授業と違い個別にきめ細かいフォローが必要とされることなどから、教員の負担が増えることが懸念されています。

予想される教員の負担増の例
・幅広いテーマに教員が対応することが難しい(調べる時間がない等)
・外部連携を行うにしても調査や打ち合わせに時間がかかる
・個別にフォローアップするのが大変
・教員にもファシリテーションを中心とした指導を研修する必要性

週2時間の探究のために、月80時間、人件費にして約20万円の予算増が必要ではないかとの試算もあります。

引用:第3回 産業構造審議会 商務流通情報分科会 教育イノベーション小委員会 学びの探究化・STEAM化ワーキンググループ資料3 今後のスケジュール(案)

探究成功のポイント

探究成功のポイントはいくつかあります。ここでは5つのポイントを紹介します。それぞれについてさらに詳しく知りたい方は、詳細記事のリンクを貼りましたので、そちらもご覧ください。

探究成功のポイント
・学校でチームを作って取り組む
・外部のリソースを活用する
・「教える」から「ファシリテーション」へ発想を転換する
・事例をうまく活用する
・EdTechツールを活用する

学校でチームを作って取り組む

探究担当の先生が一人指名され、計画や指導案まで作成する、ということが行われる場合もあるようですが、望ましいのは学校全体でチーム体制を作ることです。

役割分担をする、定期的に相談できる体制などを作ることで、先生の負担が軽減され、問題が起こっても早期に対応できます。

また、多くの先生が関わることでノウハウを幅広くシェアでき、「熱心が先生が転勤したら探究熱が冷めてしまった」というようなことを防ぐことができます。

参考記事
>探究の成功に不可欠なのは「学校を挙げた協力体制」その理由と実現に必要なことを指導要領をもとに解説
>探究を成功させる組織整備の実践事例6つ【指導体制・運営体制・研修】

外部のリソースを活用する

チームの概念は学校の外に広げることもできます。幅広いテーマが選ばれる可能性が高い探究では、テーマに関する専門性が学校の先生だけでは確保できない場合があります。そのような場合に、すべてを先生が調べたり、回答を用意することは現実的ではありません。

専門性を持った外部のパートナー(専門家や企業、NPOなどの団体)と連携することが先生の負担を減らし、かつ探究のクオリティを上げるポイントです。

参考記事
>【前編】徹底解説!探究学習の外部連携に必要なことは?連携のパターン、メリットについて
>【後編】徹底解説!探究学習の外部連携とは?連携時のポイント、連携先の探し方、事例について

「教える」から「ファシリテーション」へ発想を転換する

先生は、生徒がわからないことを教えてあげたい!という気持ちが強いと思います。しかし探究のテーマは幅広く、先生が生徒がわからないことをすべて教えてあげることはできません。

むしろ、どうやって調べれば答えが探せるか?知っている人を探して取材を申し込むにはどうしたらいいのか?など、解決方法を見つけることをサポートするのが探究ともいえます。

ここには「教える」という講師的な役割から、寄り添って背中を押すという「ファシリテーション」へという発想の転換が必要です。

こうすることで、生徒自身が考え、探究することができるばかりか、先生側も、教えたり、調べたりする時間から解放され、時間的な余裕が生まれる事すらあるのです。

参考記事
>「教えない」ファシリテーションが探究学習成功のカギ

事例をうまく活用する

探究が初めて、そもそもイメージがわかない、という場合は、まず事例を参考にするのが良いでしょう。テーマだけでなく、時間数、生徒の学習レベルなど、学校やクラスによってさまざまなバリエーションがありえます。近しい事例を見つけられれば、最初はそれをアレンジする形で指導案を作ることもできます。

参考記事
>探究学習の事例が見たい!61の事例を集めました【総合・教科+海外も】

EdTechツールを活用する

これからの時代に必要なスキル・資質を養うための、探究学習の必要性は疑う余地はありません。しかし学校の労働環境の問題も無視できません。

そこで私たちStudy Valleyは、学校の労働環境と探究学習の成功を両立するために探究学習に特化したEdTechツール「TimeTact」を提供しています。

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探究学習スタートガイド

そのほか、探究学習を始めるにあたって、知っておきたい情報をこちらの記事にまとめていいます。これから探究学習に本格的に取り組みたい方はこちらもどうぞ。

>探究学習スタートガイド【計画・実施・評価・事例まで徹底解説】

まとめ

今回は教員の忙しさの視点から教育現場の現状や、改善に取り組んでいる事例について紹介しました。

一朝一夕で解決できる問題ではありませんが、まずは現状を把握して、取り組めるところから取り組みましょう。

EdTechツールについては、さまざまなツールのカオスマップも作成しています。無料でダウンロードできますのでこちらもどうぞ。

ABOUT ME
この記事を書いた人:Study Valley 編集部
探究No.1メディア”Far East Tokyo”編集部です!執筆陣は、教育コンサルタント、元教員、教育学部大学院生など、先生方と同じく、教育に熱い思いを持つStudy Valleyのスタッフ陣です。子どもたちがわくわく探究する姿を思い浮かべながら制作しています!先生方のお役に立ちますように。Twitterフォローで記事更新情報が届きます。